水産普及だより 第 25-4号 平成25年7月26日
~島勝大敷にてキハダ水揚げ~
紀北町紀伊長島海山区にある島勝大敷で、平成25年7月26日、キハダマグロがまとまって水揚げされました。島勝大敷は、ブリ大敷と呼ばれるブリを主なターゲットにした大型定置網で、キハダが水揚げされることは、まれです。今回は、そのキハダが約400kg水揚げされ、島勝の魚市場がにわかに活気づきました。
キハダ
キハダは外洋の表層を泳ぐ魚ですが、カツオなどの群れを追って沿岸近くまで来遊することがあると知られています。成魚なら体長2m、体重100kgを超える中型のマグロの仲間ですが、日本近海のキハダは、熱帯産のものよりもやや小型であると言われています。左の写真は、この日漁獲された最も大きな2尾のキハダです。体長約80cm、体重約20kgと、やや小柄な印象です。他に漁獲されたキハダは、「キメジ」と呼ばれる約40cm、2~3kg程度の、かなり小型のものばかりでした。
大敷網
大敷(大型定置網)という漁法は、待ちの漁法です。ある場所に仕掛けられた網に、偶然通りかかって迷い込んだ魚を漁獲します。(もちろん、「偶然」の確率を上げるための努力・工夫は、よくよく練られており、例えば、「ブリ大敷」はブリが通りやすい場所に仕掛けられています。)
では、待ちの網にどうして突然、外洋からキハダがやってきたのか?という疑問が湧いてきます。市場で定置網関係者と話をしていると、志摩半島の片田にもキハダが揚がったという噂を耳にしました。ならば、熊野灘を広い目で見なければなるまい、と三重県水産研究所のサイトから、海況図を引っ張ってきました。
熊野灘の状況
上図が関東~東海にかけての海況図で、青から赤になるほど水温が高いことを示しています。黒い点線で描かれている所は、黒潮の流軸です。
魚が大敷に入るのは、漁獲日の前の夜からなので、7月25日の図(右)と、そのさらに前日の24日の図(左)を比べてみました。すると、熊野灘では、24日よりも25日の方が赤い部分、すなわち水温の高い水域が沿岸に押し寄せている様子を見ることが出来ます。また黒潮の流軸も遠州灘に差し込むような形をしており、外洋の温かい海水が岸まで接近していたという状況が考えられます。
このことから、三重県沿岸の大敷で獲れたキハダは、外海の暖水に乗ってやってきたのではないかと考察出来ました。
当然のことですが魚が獲れるかどうかは、水温だけでなく、エサ生物や天気、海流など様々な条件によって変化します。漁師は日々、空や海とにらめっこして明日のことを考えます。そんな中、予期せぬ突然の大漁というのは、やはり嬉しいもの。水揚げが一段落すると、大敷の船の乗り手も、市場に並んだキハダを見てついつい笑みがこぼれてしまう、そんなある日の朝でした。