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第68回みえ県展 審査評

日本画部門審査評

 審査を開始してまず思ったことは、自然を題材とした作品が多いということであった。風景や植物など作者がいつも目にしている対象を優しく穏やかに捉えているのだ。それは、海や山に恵まれた三重県ならではの作風なのではないかと思った次第である。
 さて、審査とはいつも残酷なものなのである。入選と選外が決まり、さらに入賞という優劣が付けられる。出品された方々にとっては納得のいかないこともあるだろう。精魂込めて描き上げてきたのであるから。だが、審査する側もまた、真剣勝負なのである。審査員としての見識をもち、日本画に携わってきた経験によって、公正かつ厳選に作品と向い合うのである。
 その結果、出品数74点中、34点が入選し、「日光月光コケコッコー」が最優秀賞を受賞した。鶏を主題に日本画の特質でもある装飾性を前面に打ち出した優作である。まるで三重の伊藤若冲かのように、鶏の描写力はこの作品の力量を伝えていた。ただ、タイトルの付け方に一考が必要のようにも思えた。この感想は他の出品作にも同じことが言える。画題もまた作品の一部であることを忘れてはならない。
 優秀賞(三重県教育委員会教育長賞)の「あお」は、今回受賞された作品の中で、唯一、人物をテーマとした作品であった。ブルーを基調に窓際に座る女学生が描かれているが、人間の内面を深く見つめようとするその姿に共鳴と好感をおぼえる力作であった。
 受賞された作品は、それぞれに見ごたえがあり、内から湧き出てくるような力を内在させていた。それは、作品に何ものかを託そうとする作者自身の思いとしてのエネルギーにほかならなかった。出品者すべての皆様の日本画に対する深い想いに敬意を表した。
 そして日本画とは、常に写生と素描を忘れてはいけないと思う。生を写すこと、素を描きとめること。描こうとするものの本質を深く見つめる心が、日本画の次なる扉を開く。
 

日本画部門主任審査員 柳原 正樹


                                                                                                         

洋画部門審査評

 今年の洋画部門の出品数は173点で、昨年より8点少なく、また入選作品は80点であった。全体的に見て、大きく抜きん出た作品は見当たらなかったものの、独自のテーマを粘り強く追及し続け、着実に成果をあげている作家も多く見受けられ、地域の文化の層の厚さに頼もしさを感じた。
 最優秀賞の「広島の足跡」は、画面中央上部の原爆ドームとタイトルから考えると、社会性を持った重いテーマの作品と解釈できるが、目を転じると靴という大量生産品に囲まれた、現代社会の一断面を捉えた作品にも見えて来る。優秀賞(三重県議会議長賞)の「蝕まれたのなら」は、怖く恐ろしいテーマを単に描くのではなく、色彩や構図などきちんと造形的な配慮もされた作品で、特に手は美しく表現されていた。優秀賞(三重県教育委員会教育長賞)の「アカヤシオ」は、青空を背景にしたピンクの花の美しさを純粋に歌い上げた作品であろうが、描かれた作品からは、我々の知覚像がいかに写真から影響を受けているか改めて考えさせる作品となっていた。三重県市長会長賞の「おちる・かたち」は、3人の人物のかたちの面白さと、巧みな構図、そして何よりも色彩が美しい。人物をもっと描き込めば更によくなりそうだ。岡田文化財団賞の「出現COELACANTH」は、具象/抽象、西洋/東洋、立体/平面など様々な対立的なテーマが一つの画面の中に読み取れる不思議な空間が魅力である。特にシーラカンスの描写力は見事だ。中日新聞社賞の「古都」は、古都のイメージをモノクロームの写真的な表現で巧みに表している。特に現代的で若々しく爽やかな作風は、出品作の中でも群を抜いていた。すばらしきみえ賞の「ハルノツキ」は、画面下部の黒く長い月のような形が特徴的な、抑制された色彩が美しい作品である。月は船にも見えて、画面のあちこちに配置された形や色が渾然一体となって不思議な物語を紡いでいる。for your Dream賞の「ヴォカリーズ」は、シンプルな構図や色彩で言いたい事を直球で表現した作品である。その作品の佇まいは、他の出品作と比べるとより強調される。造形的なテーマを扱う作品が多い中で、愚直にテーマに向かう態度は好感がもてる。自然の恵み賞の「ともに」は、岩と植物に接近し、自然と一体となって描いている姿が伝わってくるような作品である。作者と対象の間には心理的にも物理的にも距離はない。
 

洋画部門主任審査員 横溝 秀実


 

彫刻部門審査評

 作品の審査をさせていただくのは、独特の緊張感がある。彫刻は、製作について困難を伴うので、他の分野に比較して出品数が少ないのは、何處(どこ)も同じ現象であろうが、少数の作品を審査するということは、選択肢の狭さというようなこともあって、難しい局面も出てくる。今回は、出品数19点ということで、作品の大小や素材、形としての具象や抽象と多様であった。そのような状況の中、審査を行う私以外のメンバーは、特に実績のある著名な立体造形の作家であり、それぞれに特色を持つ3名であったが、各々の審査結果については、当初より極めて近い結論に至ることになった。細部の評価については、いささかの議論もなされたのだが、大きく評価が異なるということではなかった。
 最優秀賞に選ばれた今岡秀則「鉄の雨の詩~鉄打つ僕と鉄の雨に打たれた君~」は、即座に賞が決定したスケール感の大きな作品である。題名はいささか難解ながら、製作技術についても熟達の域に達しており、廃材を利用しての重厚で、ある意味の不気味さを醸し出す主張に、独特のスケールを感じさせる。これに対して優秀賞(三重県議会議長賞)の谷本雅一「孤独」は、石材の質感を生かした、(まと)まりを表している。石を磨く技術には刮目(かつもく)すべきものがあるが、将来的には、より雄大な表現を期待したい。三重県市長会長賞に選ばれた山田風雅「たった今できあがった世界の王さま」は、様々な流木を組み上げて、三重県を代表するカモシカを表している。偶然の産物を構成して新たな立体像を作る試みは、近年、よく行われる技法であるが、その逆説的な指向性について、いっそう斬新な試みに至ることを望みたい。
 今回、この山田風雅や、自然の恵み賞「空音」の作者、福住瞳美は弱冠十代での受賞である。熟達した技術に基づく完成の域に達した立体造形はいうまでもないことだが、このような若い人たちの意欲に満ちた作品が受賞していることも、意義深いことであろう。
 

                     彫刻部門審査主任 髙梨 純次


 

工芸部門審査評

 工芸部門は前回より6点増の68点で、このうち47点の入選作品を選出した。陶芸作品が比較的多かったが、金工、漆工、木工、染色、人形、七宝などさまざまなジャンルの作品が出品されていて、審査に当たっては難しい選定をせまられた。1点1点粒よりな作品が多く、全体的なレベルは高かったように思われる。
  その中で受賞作品について、私の印象なり、感想を述べさせていただくこととしたい。まず最優秀賞の中西雄一「黒陶・沈」は、堅牢たるフォルムの黒陶の作品で、偶発的にできるヒビを加飾として、他を圧倒する存在感があった。同じく陶芸の優秀賞(三重県議会議長賞)の鈴木薫『「望」』は、土に顔料を混ぜて焼くことで、古い沈没船から引き揚げられ、さまざまなものが付着している壺のような時間の重なりと独自の形体が目をひいた。優秀賞(三重県教育委員会教育長賞)の杉谷三朗「朱溜菊華盤」は、落ち着いた朱溜塗りで、輪花形に菊花をあしらったシンプルな表現で、裏面の処理も神経が行き届いた好感の持てる作品である。三重県町村会長賞の杉森与平「伊賀釉鎬壺」は、一見すると何気ない表現のように見えるが、帯状の斜めの文様の切れ目に伊賀焼特有のグリーンの釉薬が見られ、作者の質感に対する創意が感じ取れる。岡田文化財団賞の大西攻「鍛金花壺」は、均整のとれた堂々たる大振りの壺で、たたく前に銅を酸化させることで、肌に表情を与え、並々ならぬ強い意志で作品を仕上げた力作である。中日新聞社賞の山中さゆ子「唐草とトカゲ」は、七宝の装身具セットである。単色の銀の枠と七宝の色彩がほどよく調和している。すばらしきみえ賞の伊藤佳子「路傍の夏草」は、夏草を藍のグラデーションで写実風に丹念に表現した佳品である。for your Dream賞の宮田みち子「萌え出づるものたち」は、パネル仕立てにレリーフ状に織なされたもので、炎のように萌え立つ形と鮮烈な色彩で生命のエネルギーを感じさせる。自然の恵み賞の田中実『「どんぐりの丘」1,234個』は、ロクロで成形した木彫の無数の小さなドングリと一部に細密な彩色を施したものを加え、盆に盛って量塊として表現している点に注目したい。
 画一的、均質的でなく、さまざまなジャンルによる工芸部門の多様性は、創造的な作品が生み出される可能性を胚胎していると言える。次回の意欲的な出品を期待したい。
 

工芸部門審査主任 住谷 晃一郎


 

 

写真部門審査評

 昨年に続いて、写真部門の審査を担当させていただいた。他の部門と比較して、写真部門の出品点数は362点と最も多く、前回から6点増えている。ただ、出品者の高齢化が進みつつあるのがやや心配だ。今年の応募者の最年少は19歳であるが、20代、30代の応募は極端に少ない。もう少し若年層にアピールする工夫が必要になるのではないだろうか。とはいえ、入賞者のレベルは着実に上がってきている。最優秀賞の棚村たか子「犬の居る生活」は、老夫婦と大きな犬の日常を柔らかな視点で切りとった、スナップ写真の秀作である。上位入賞者ではモノクローム作品はこの作品だけだったのだが、さまざまな要素を的確に処理した画面構成、光の捉え方など、とてもうまくまとまっていた。優秀賞(三重県議会議長賞)の浜口陽彦「青春の1ページ」は、卒業式直後の女子学生二人を撮影した楽しい作品だ。ジャンプする二人の姿、空中に投げ上げられた卒業証書の筒を、見事なシャッターチャンスでとらえ切っている。優秀賞(三重県教育委員会教育長賞)の田中正博「踏切」も、日常の場面を題材にした切れ味のいいスナップ写真である。ローアングルの視点で、バラバラな方向を向いた群像を、とてもうまく画面に配置している。
 他の入賞作品も、それぞれバラエティに富んでいて、“発見”や“感動”が伝わってくる写真が多かった。このところの審査を見ると、お祭りや撮影会などの行事を撮ったテーマ的に使い古されてしまった写真は、上位入賞はかなりむずかしくなってきている。やはり、普段から感覚を研ぎ澄まし、常に新たな視点を模索していく努力が必要になるということだろう。日々の“目の鍛錬”を積み重ねていくことで、自分の作品世界をもう一段階飛躍させていってほしい。次回も、力作、意欲作がさらに増えてくることを期待している。
 

写真部門審査主任 飯沢耕太郎


 

書部門審査評

  総出品点数は163点(漢字113、仮名20、調和体25、篆刻5)昨年に比べて8点減であった。各部門共にレベルの高いものが揃っていて審査に長時間を要し、ほんの紙一重の差で入選できなかったものもかなりあった。最終的には3人の審査員で厳選且つ公正に入落を決定した。
 審査の基本はやはり古典作品を基盤とした錬度の高いものが要求される。書作において創意と工夫が制作上の重要な要素であるが、作品全体を見て感じたことは、類型的な作品から個性的表現への脱皮をうかがえる反面、師風、会派等の類型的な書風から脱皮しきれないのもかなりあった。書の美的要素としては、墨色の研究、線質の鍛錬、リズム感、余白の美等が挙げられるがこうしたものは短時間でできるものではなく、鍛錬に鍛錬を重ねた中から生みだされるものであり、そうしたことから個性豊かで格調高い書作品が生まれると信じる。書に限らず芸術の道を志すことは終局のない習練への挑戦であるが、最終的には常に自分の顔を表す個性豊かな作品を目指して制作に励んでほしいものである。作品の提出時期を見据えて少しでも早くから計画を立てて、練習量を多くし魅力ある作品の制作に取り組まれることに期待する。
 
最優秀賞…村林龍鳳氏の作品は、六朝時代の造像記を基調とした楷書作品で、墨量を生かし、気力、筆力に溢れ、鑑賞者を圧倒し、練習量の豊富さを物語る快心の作品である。
優秀賞(三重県議会議長賞)…岸岡貞泉氏の作品は、行書の単体作品でありながら字群の疎密、余白の美が絶妙で、明るく爽やかさを感じさせる秀作である。
優秀賞(三重県教育委員会教育長賞)…鈴木かよ子氏の作品は平安古典の基礎をしっかり学んだ秀作である。名筆の特徴的な字姿、連綿のリズム、抑揚等への理解も高く、誠実な練習成果の現われが好印象である。
 

書部門審査主任 髙木 聖雨

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