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平成29年10月13日

 

2017(平成29)年度 人権教育推進管理職研修会 講演記録

「若い教職員を育てる」

大阪教育大学 教職教育研究センター 教授 岡田 耕治(おかだ こうじ)さん

 
 2017(平成29)年5月31日(火)、小中学校等校長を対象とした人権教育推進管理職研修会を行いました。講師に、大阪府の小中学校で教職員経験があり、現在は大阪教育大学教職教育研究センター教授である岡田耕治(おかだ こうじ)さんをお迎えし、「若い教職員を育てる」と題してご講演いただきました。ここでは、その一部を紹介します。
 

 

1 はじめに

 私がある中学校で女子ソフトボール部の顧問をしていたときのことです。地区大会決勝、6対2でリードして最終回の守りに入ったのですが、2アウト満塁になったんです。私はタイムをとって「ホームラン打たれても同点だからリラックスしていこう」と子どもたちにアドバイスをしました。ゲーム再開後、1球目にホームランを打たれました。その後、フォアボールを出して、盗塁され、ヒットを打たれ逆転負け。

 なぜ負けたのかを考えると、私のアドバイスに要因があったのだと思います。例えば、高めのボールを空振りした子どもに、「高めを打つな」と言ったら、絶対また高めを振りますよ。だけど、「低めを狙え」と言ったら低めに意識が向かいます。人の意識というのはそういうものです。なのにわざわざ私はタイムをとって、「ホームランを打たれても同点」と言っているんですね。子どもたちに、「先生は、ホームラン打たれるかもしれんと思てるんかな」と思わせてしまったんですね。
 今、私は、このような自分の失敗談を大学生や若い教職員に、「何とかいい教員になってほしい」と思い、語っています。

 

2 校長として勤めていた学校での取組 ~対話による共感が集団をつなぐ~


 小学校の校長をしているとき、5年生のあるクラスがちょっと荒れていました。そのクラスの子どもたちは、隣の空き教室に机と椅子をがちがちに組み上げて基地を作っていました。授業が面白くないと、その基地に籠城してしまうこともありました。私はそのクラスの子どもたちに、「ここを校長室にしようと思うんだけどいいか?」と、問いかけました。すると子どもたちは、「えっ、校長室?いいよ」と返事をくれました。そして、子どもたちと一緒に基地を解体し、そこを校長室にしました。
 私は、このクラスを何とか回復させたいと思い、小学校の荒れをテーマにした本を片っ端から読んでいたときに、SABONAマットというものに出会いました。SABONAマットとは、このようなものです(右写真参照)。
SABONAマット


 SABONAとは、南アフリカ・ズールー人の挨拶の言葉で、「私はあなたを見ていますよ」という意味。詳しくは、「SABONAマット教育」で検索すると調べることができます。

 
 
 そのクラスは、とにかく男女の仲が悪い状態でした。クラスを良くしていきたいけれど、悪い状態がすでに長く続いていて、変えられないというあきらめムードが漂っていました。そこで、このマットを使って男女の対話を促したいと考えました。空き教室に作った校長室にロープを2本引っ張って4つの部屋に分け、まず女子に来てもらい、次のような流れで話を聞いていきました。
①あかるい未来(今の学年がスタートするときにどんなこと思った?)
→「みんなでいい思い出を作りたい」「勉強頑張ろう」                   
②くらい過去(今までどんな嫌なことがあったかな?)
→「2年生のときにあの子にこんなこと言われた」「授業中に男子が消しゴムの投げ合いをするから、いつも教室が汚い」「先生が注意しても聞くときと聞かないときがある」
③あかるい過去(今まで、どんないいことがあったかな?)
→「4年生の学習発表会に家の人が来てくれて、みんな感動してくれた」「5年生のソーラン、予行では失敗続きやったけど、本番は決まって良かった」
④くらい未来(このままだったらどうなるかな?)
→「怪我人が出る」「いじめが起こる」

 このような話を出した後、最後に「あかるい未来」の部屋に戻り、「どんなふうにしたらクラスが良くなると思う?」と聞くと、「男子が、なぜイライラを私たちにぶつけてくるのかを聞きたい」「『消しゴムを投げない』とか、自分たちで話し合って決めたい。もし消しゴムを投げ始めたら、先生が授業をストップして、『みんなで決めたことを思い出そう』と言ってくれたら、消しゴムを投げ合うのを止めるようになると思う」「先生に入ってもらい男子と女子で本音トークをさせてほしい」といった提案が出されました。
 次に女子と男子が入れ替わり、同様のことを行い、最後に提案を聞きました。
 そして、次の日、学級で「男子はこう言ってたよ」「女子はこう言ってたよ」と、お互いの考えを共有し合いました。

「SABONAマットが目ざすもの」
 1)互いへの「共感」を取り戻す
 トラブルの当事者は、相手への憎しみから「私は正しい。相手こそ悪者だ」という「善悪二元論」に陥りやすいものです。そうなると、なかなか相手の言うことに耳を傾けようとしなくなります。でも、相手を少しでも理解し「共感」を持つことができるなら、人間関係をトラブル発生前の状態に戻せる可能性が生まれます。「共感」の基盤は、自分を見つめる力と過去の良い思い出の中にあります。
 2)自分の本当の目標を思い起こす
 学校に通う子どもたちの目標は、安心して学ぶことができ、仲良く遊んだり、活動したりすることを通して成長していくことです。しかし、トラブルの最中は、目標がゆがみがちです。相手を憎んだり、やり込めたり、排除する、そんな目標にとらわれると、行動は次第にエスカレートし、暴力的になるでしょう。トラブルの本当の原因を見据えることによって、そしてまた相手へのまなざしを変えることによって、ゆがんだ目標にとらわれている自分に気づき、学校や家庭、地域の中で生きる本当の目標を取り戻すことが大切です。
 3)見守ってくれているという安心感を持つ
 トラブルを抱え、人間関係がぎくしゃくした中では、当事者は孤立感を抱いて「誰も自分のことに注意を払ってくれない」と思いがちです。SABONAマットを使って子どもたちと対話することを通して、子どもたちに「自分はひとりぼっちじゃない。自分のことを見守り、助けようと考えてくれる人がいるんだ」という気持ちを持ってもらうことが大事です。そうした体験こそが、子ども同士が助け合い、手をつなぐことの意味合いを発見するきっかけになります。
 4)SABONAマットを頭の中に
 問題を解決し、トラブルを乗り越える力をつけるために、過去と未来、くらいこととあかるいことについて振り返り、思いを寄せ、発想を広げること――SABONAマットは、その作業を目に見える道具を使ってやろうというものです。でも、道具がなければ思いつかない、では困ります。いつでも、どこでも、日常生活の中で問題に直面したときに、自動的にこうした発想でものを考える癖をつけることが、このマットの目ざすものです。

           ※岡田耕治さんが、【「SABONAマット教育ガイドブック」SABONAの会、
             公益財団法人京都YWCAほーぽのぽのの会編】を参考に作成
 そして子どもたちは、担任の取組もあり少しずつ安定してきました。「もう校長室を1階に戻すけど、それでいいか?」と子どもたちに聞いたところ、「いいよ、ぼくら頑張るよ」という答えが返ってきたので、校長室を1階に戻しました。担任の先生は苦労したと思いますけど、子どもたちは日に日に落ち着きを取り戻していきました。
 

3 がじゅまるカフェの取組~若い教職員とともに学ぶ~

 校長を退職した後、大阪教育大学に勤めることになりました。これからは若い学生を相手に授業をしなくてはいけないということで、「演出家に学ぶプレゼンテーションの方法」という講座を受講しました。パワーポイントの使い方とかを教えてもらえるのかと思っていたら、まったく違いました。その演出家の方は「プレゼンは目です」と言うのです。その後、アイコンタクトを意識したプレゼンの実技などを通して、相手の目をしっかり見て伝えることの大切さを教えてもらいました。教室で言えば、子ども一人ひとりを、2秒ずつくらいちゃんと見ること、それによって、「見てもらっている」「認められている」という安心感を持たせることの大切さです。
 そのころ、大阪狭山市の「がじゅまるカフェ」※という取組に誘っていただきました。そこで、若い先生方に授業の初めにアイコンタクトを送ることの大切さを伝えると、ある参加者が、「自分は子どもに対して、『めあてを書き写せたら、先生に目で合図してね』と指導している」と言いました。こちらからアイコンタクトを送るだけでなく、子どもから受け取るという方法もあるということを参加者から教えられました。このように「がじゅまるカフェ」では、私から伝えるだけでなく、参加者一人ひとりが職場で直面している問題やその解決方法などを、お互いに出し合うことも大切にしています。

※【がじゅまるカフェ】《大阪教育大学HPより》  
大阪狭山市の若手教員を対象とした教師塾「がじゅまるカフェ」で、教職教育研究センターの岡田耕治教授が講師を務め、教師歴38年で培った手法を導入した授業を展開しています。大阪狭山市教育委員会の学校教育グループと大阪狭山市校長会の共催による同塾は、「“が”まんせず」「“じゆ”うな心で」「“ま”ちがいOKの」「“る”-きーたちの」カフェとして、毎月1回のペースで開かれており、教員同士の交流の場としても機能しています。



 また、「収集カフェ」というのを最近始めました。4人1組になり、あるテーマについて情報を出し合う研修です。例えば、3月30日には「学級開き」をテーマに行いました。3月30日に研修会を設定することはあまりないかもしれません。だけど、若い人にとっては、この時期に、「学級開き」でどんなことを話したらいいのかを話し合うことは、とても有効なんです。「収集カフェ」の1ラウンド目は、グループ内でどんな「学級開き」にするかを出し合います。2ラウンド目は、そのグループの中の1人が残って、3人は別々のグループへ移動します。そして、新しいグループで「私は、こんな『学級開き』をやっています」とか、「私のグループでは、こんな『学級開き』がいいという話が出ていました」というふうに情報を紹介し合います。3ラウンド目も1人を残して3人が移動します。4ラウンド目には、元のグループに戻って、「こういうことが自分としては収穫としてあった」と話します。このように、お互いの情報を出し合い収集することで、これからの自分の取組のヒントにしていきます。
 こういう取組を通して大阪狭山市の教職員のみなさんと人間関係ができてきたので、最近は「授業に入らせてください」「ビデオに撮らせてください」とお願いしています。若い先生の授業の映像を、「がじゅまるカフェ」で観て「ここ、もうちょっとこうした方がいいのでは」とアドバイスを出し合うのですが、それで終わるのでなく、その後もう一度その先生の授業を撮らせてもらい、「ビフォー」と「アフター」の比較もしています。研修の効果に関する次のような研究があります。単に理論を聴くだけだと理解はできても実際に仕事に応用することはなかなかできない。しかし、実例をもとにして理論を学び、演習を行うと応用力を高められる。さらに、実践する際に上司や同僚のサポートがあるとその応用力は、何倍にも上がるのだそうです。「がじゅまるカフェ」では、そんなことをしたいと考え、取り組んでいます。


 

4 行為の中の省察

 私は、いろんなことを若い教職員や学生に伝えたいと思っていますが、これだけは覚えておいてほしいと言っている言葉があります。それは、「行為の中の省察」です。私は、この言葉と出会ったときに、「あっ、そうだ。この『行為の中の省察』ができたら絶対教師としてやっていける」と思いました。省察というのは反省です。今でも冒頭にお話しした地区大会のあの決勝戦、6対2で勝っている場面が夢に出てきます。私があの場面にもう一度戻れるのなら、絶対に、何にも言わずベンチにずっと座っています。ただ微笑んで「信用してるぞ」というオーラを送り続けます。でも、今さらこんなふうに省察しても、そこへは戻れないから、やはり行為の最中、つまりやっているときに、省察することが大切だと思うんです。例えば、子どもや保護者と話しながら、「自分の言っていることはどれだけ届いているだろうか」とか、「この保護者は、本当は何を伝えたいのだろうか」とか、考えることです。行為をしながら、「これでいいのだろうか」と俯瞰(ふかん)するもう一人の自分を持つ力、その力さえあれば絶対にやっていけます。
 このことと通じる話を、ある臨床心理士の方に「カウンセリングの極意」として教えていただきました。その方は、カウンセリングの極意は「左半分で聞くこと」だと言われました。カウンセラーというのは、人の話をしっかり聴くのが仕事だと思っていましたから、びっくりしました。でもその方は、「左半分で聴きながら、右半分で『本当はこの子はどう思っているのか。何を願っているのか。この保護者はなぜここまで言うのか』と、自由に思いめぐらせるようになることが、カウンセリングの極意だ」と言っていました。
 このようなことを、大学生やこれから教壇に立つ若い教職員に伝えています。
 ご清聴ありがとうございました。
 
 

 

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三重県 教育委員会事務局 人権教育課 調査研修班 〒514-0113 
津市一身田大古曽693-1(人権センター内)
電話番号:059-233-5520 
ファクス番号:059-233-5523 
メールアドレス:jinkyoui@pref.mie.lg.jp

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