「芭蕉野分して 盥に雨を 聞く夜かな」
台風の風が激しく葉を吹き荒らし、大雨が大地に降り注ぐ季節です。
先日も県北部において、記録的豪雨による大規模な浸水被害が発生しました。台風到来と大雨の本格到来の時期にあたり、気を引き締め、県民の命を守るために邁進する所存です。
ただいま上程されました議案の説明に先立ちまして、今後の県政運営にあたって、知事として私の所信を申し述べ、議員の皆様並びに県民の皆様のご理解とご協力を賜りたいと思います。
私は、4年前に知事に就任して以来、県民の皆様が未来に希望を持ち、安全・安心に暮らすことができるよう、「強じんで多様な魅力あふれる『美し国』」の実現に向けて、一つ一つの課題に全身全霊で取り組んできました。
県民の命を守る上での一丁目一番地である防災対策では、巨大地震の発生時に想定される「家屋倒壊」「津波」「火災」「孤立地域」の対策を重点的に進めてきました。中でも津波避難タワーについては、令和5年度に創設した市町への補助制度により、整備を加速しています。加えて、能登半島地震への支援活動で得た気づきを99の取組に整理し、南海トラフ地震対策として推進しています。
今月12日に県北部で発生した大雨による浸水被害につきましては、本日、特に被害の大きかった四日市市の地下駐車場へ私も臨場する予定ですが、既に22日には県内各市町に対して「地下空間における浸水対策の再確認」に係る注意喚起を行ったところです。今後も国、市町と連携しながら必要な対応を迅速に進めます。
また、未来を担う子どもたちが豊かに育つための子ども施策では、「みえ子どもまるごと支援パッケージ」により、総合的な対策を進めてきました。令和5年に創設した「子ども・子育て応援総合補助金」で、市町の創意工夫による子ども・子育て支援の取組を後押しするとともに、子ども医療費支援の拡充により、子育て環境の整備を着実に進めています。
さらに、三重県を支える産業の一つである観光分野では、県庁の組織と予算を強化し、滞在型観光やインバウンド誘客、首都圏等へのプロモーションを積極的に進めてきました。三重県の観光消費額は、コロナ禍以降順調に回復しつつあり、外国人延べ宿泊者数のコロナ禍前からの回復率についても、令和6年は全国最下位であったものの、直近の令和7年1月から6月までの累計では速報値で38位となるなど、インバウンド増加の兆しが見え始めています。
このように、形が見えてきた施策もありますが、県政が直面する課題は、人口減少や災害対策、子ども施策等、まだまだ山積しており、また、時々刻々と変化しています。
三重県をさらに発展させるため、防災対策や医療・介護、子ども施策を推進する「県民の命と尊厳を守る」側面と、産業振興や観光振興、交通網の整備をはじめ、住みやすく、賑わいのある環境を整備する「未来を拓く」側面の両側面から施策を推進していく必要があります。
そして、本県の重要課題である人口減少へ対応していくため、ジェンダーギャップ解消に向けた戦略策定を進めていくとともに、公共ライドシェアの推進や、これまで構築してきた諸外国政府とのネットワークを活用した外国人材確保等を進めていきます。
古代中国では、政治のことを「聴政」と呼んでいました。また、明治新政府の基本政策である「五箇条の御誓文」には、「広く会議を興し、万機公論に決すべし」と掲げられています。
三重の歩みを止めず、さらに前進させるために、県民の声に耳を傾け、時代の状況変化に対応しながら、誰もが住みよい、住みたいと思える三重県の実現に向けて全力で取り組んでいきます。
(国外情勢)
国外情勢について申し上げます。
世界では、依然として紛争が絶えません。
パレスチナとイスラエルの紛争は、来月に発生から丸2年となり、子どもを含む多くの死傷者が発生するなど依然として深刻な状態が続いています。
ロシアによるウクライナ侵攻は、3年半が経過し、首脳間による和平交渉の動きがありつつも、まだ先の見えない状況が続いています。
そのような中、日本は今年、戦後80年の節目を迎えています。8月に私も参加した平和のつどいには、多くの県民の皆様に出席いただき、若い人たちをはじめ、あらゆる世代が平和について考える機会となりました。戦争の悲惨さ、平和と命の尊さを次世代に語り継ぐ取組を今後も継続していきます。
(国内情勢)
今月8日、悠仁親王殿下が成年の御報告のため神宮に参拝されました。殿下の御来県は3回目、成年されてから初めてのことであり、わが国の「常若」と未来への希望を感じさせていただいたところです。
国政においては、石破首相が辞任を表明されたことにより、新たな首相が決まるまでしばらく時間がかかると思われます。三重県では、その間においても歩みを止めることなく、着実に取組を進めていきます。
また、「第44回全国豊かな海づくり大会」まで1か月半を切りました。県内各地で稚魚の記念放流や、県内企業との連携に取り組むなどオール三重で気運醸成に努めるとともに、開催に向けて着実に準備を進めているところです。水産資源の保護や環境保全の大切さに加え、地域経済を支え、文化とも密接に関わってきた日本を代表する三重県の水産業を発信する大会にしていきます。
(全国知事会議)
米国関税措置や物価高騰など、将来の予測困難な情勢の中、7月に青森県で開催された全国知事会議に出席しました。混沌とした国内外情勢の中であっても真の地方創生の実現に向け、地方が直面する課題について広範囲に亘り議論を行ったところです。
中でも、地方や我が国の現状、さらには将来の経済を考えると、外国人労働者は必要不可欠な存在となっています。昨今、外国人に関して漠然とした不安を抱える声もあることから、国籍を問わず法令を順守することや、国からのメッセージの発信が必要である旨訴えかけ、排他主義・排外主義の否定、多文化共生社会の実現について、最終日の青森宣言に盛り込まれたところです。
(県民の命を守る)
次に、県民の命を守るための施策について申し上げます。
本年度、三重県では、南海トラフ地震の新たな被害想定を作成予定です。これを踏まえ、南海トラフ地震対策に特化した条例や計画などの策定に向けて検討を進めていきます。
避難所の環境改善に向けた市町支援を進めるとともに、市町で必要とされている津波避難タワーの整備や国土強靱化に向けたインフラ整備など、命を守るための社会資本整備を確実に推進します。
今月5日には、台風第15号が三重県を通過しました。知事選挙期間中ではありましたが、公務を優先し、早めの避難と備えを行っていただくよう、県民の皆様に対して呼びかけたところです。引き続き、県民の命を守るための災害対策に万全を期していきます。
また、県民の命を守る上で、医療提供体制の確保は不可欠です。しかし、地域の拠点病院である公立病院の経営は大半が赤字となっており、民間の病院も含めて経営が苦しい状況です。そのため、国に対して、公立病院を含む医療機関の経営改善に向けた財政支援の拡充等について要望していくとともに、県としては、持続可能な医療提供体制を確保するために、医療機関の機能分担や連携について、地域医療構想の見直しに係る検討を進めていきます。
さらに、今会議に提出している三重県性暴力の根絶をめざす条例に基づき、卑劣で決して許されない性暴力により心身に傷を受け、人間の尊厳を侵されるという辛い思いをされた被害者やそのご家族への適切な支援を行い、性暴力を根絶する三重県をめざしていきます。
(子ども施策)
子ども施策について申し上げます。
みえ子ども・子育て応援総合補助金については、これまで取り組んできた2年間で創出された好事例の横展開や、支援の方向性の検討も行いながら、地域の実情に応じた子育て環境の整備を一層推進します。
また、いじめ対策のための裁判手続きによらない紛争解決手続き、いわゆる学校問題ADRの設置や、校内教育支援センターの環境充実による不登校児童への対応強化等について、教育委員会と連携しながら、効果的な取組を検討していきます。
(産業の振興)
次に、産業振興について申し上げます。
まず、県内で働く労働者の尊厳を守るため、カスタマーハラスメント防止条例の制定に向けて調整を着実に進めます。
また、三重県の基幹産業の一つである半導体産業については、戦略的な産業集積に向けた取組を展開するとともに、経済の新たな活力を生み出すために、県内外のスタートアップ連携やインキュベーション施設の整備促進など、総合的に取組を進めていきます。
農業については、将来を見据えた本県の農業振興に向けて、「三重県農業の将来を考える懇話会」において専門的な視点で議論を進めていきます。
林業については、県の管理する森林において森林由来のCO2吸収量をCO2排出企業に売却するJ-クレジット制度を活用し、今年度中には販売を開始します。この販売収入を活用して県の管理する森林の間伐を行うこととしており、県としては、これを契機として市町や林業関係者による森林由来J-クレジット創出の気運を高めていきたいと考えています。
水産業については、今年4月に約8年間続いた黒潮の大蛇行が終息したと、気象庁から発表がありました。しかし、その間に発生した磯焼けや貧栄養化等の海洋環境の変化には引き続き対応が必要であり、持続可能な水産業の実現に向けて取組を進めていきます。
また、8月のカムチャツカ半島沖地震の津波によるカキ養殖被害については、私自身、現場を視察した上で、現在、事業者に対する支援を進めているところです。
米国関税措置については、県内産業への影響把握や資金繰りの不安解消等の対策に取り組んでいるところです。今後も影響把握に努めるとともに、時機を逸することなく必要な対策を講じていきます。
(観光の振興)
観光振興について申し上げます。
今年7月、みえ応援ポケモン「ミジュマル」をモチーフとした公園が鈴鹿市と鳥羽市で開園しました。来園者からは好評をいただいており、先月からは開園を記念したスタンプラリーを実施しています。今後、市町や公共交通機関とも連携した県内周遊スタンプラリーも実施する予定であり、さらなる観光誘客につなげていきます。
また、大阪・関西万博の流れを三重県への来訪につなげていくため、大阪府内6か所で開催する三重テラスin大阪で集中的なプロモーションを実施しているほか、「三重へおいない!キャンペーン」により実際の三重県来訪を促進しているところです。
さらに、関西方面からの観光需要の取り込みに向けて、JR関西本線において、11月から12月にかけて三重県で初運行となる観光列車「はなあかり」を京都から実証運行します。伊賀牛や関宿など沿線地域の観光資源を生かした関西本線の魅力を発信し、関西方面からの誘客・利用促進による沿線活性化につなげていきます。
今後、さらなる観光振興に向けて、観光インフラの整備や滞在型周遊観光の定着化を進めるとともに、データに基づくインバウンド誘客計画の策定などを進め、オーバーツーリズムにも注意しながら戦略的に取組を進めていきます。
(交通政策・インフラ整備)
交通政策について申し上げます。
公共ライドシェアは、高齢者や学生、妊産婦、観光客等の移動にかかる課題を解決する鍵となることから、さらなる展開に向けて市町への財政的支援や伴走型支援を進めます。
リニア中央新幹線については、新たなライフスタイルの創出や観光・ビジネス交流の拡大をもたらすなど、三重県が飛躍するための起爆剤となります。一日も早い全線開業に向けて、沿線自治体と連携し、国やJR東海に働きかけるとともに、開業に向けた準備を進めていきます。
また、県内インフラの整備については、東海環状自動車道や近畿自動車道紀勢線の整備促進などにより、ミッシングリンクの解消を着実に進めるとともに、幹線道路ネットワークの構築・強化に向けて、県道等の整備を進めていきます。
(文化振興・スポーツの推進)
文化振興について申し上げます。
大阪・関西万博では今月開催した「三重のおまつり大集合!」において、県を代表する祭りの実演・展示を行うとともに、「美し国彩り三重バザール」において、県内の食文化体験や県産品販売等を実施し、三重の魅力を効果的に発信しました。
次に、スポーツの推進について申し上げます。
今年は、滋賀県で国民スポーツ大会と全国障害者スポーツ大会が開催されます。三重県選手団が日々の練習の成果を遺憾なく発揮し、活躍されることを期待しています。
(議案等の概要)
引き続き、上程されました条例案10件、その他議案5件について、その概要を説明いたします。
議案第128号は、地方自治法の一部改正等に伴い、関係条例の規定を整理するものです。
議案第129号及び第133号は、関係法律等の一部を改正する法律の施行に伴い、関係条例の規定を整理するものです。
議案第130号は、性暴力を根絶し、性被害から三重県民等を守るとともに、性暴力により心身や尊厳に侵害を受けた県民等を支援し、もって三重県民等が安全に安心して暮らせる社会の実現に寄与するための条例を制定するものです。
議案第131号は、住民基本台帳法の一部改正等に鑑み、本人確認情報の利用及び提供に関する規定を整備するものです。
議案第132号は、民生委員の任期の満了に鑑み、民生委員の定数の改正を行うものです。
議案第134号及び第142号は、関係法令の一部改正に伴い、規定を整理するものです。
議案第135号は、農業及び農村を取り巻く環境の変化を踏まえ、農産物の生産拡大等の促進及び地産地消の推進を図ることで、食料自給率の向上につなげていくため、農業の振興に関する規定等を整備するものです。
議案第136号は、警察法施行令の一部改正等に鑑み、警察官に支給する被服及び貸与する装備品の規定等を整備するものです。
議案第137号から第139号までは、工事請負契約を変更しようとするものです。
議案第140号及び第141号は、財産を取得しようとするものです。
以上で諸議案の説明を終わります。
次に、認定議案について説明いたします。
認定第1号から第4号までは、水道事業会計、工業用水道事業会計、病院事業会計、流域下水道事業会計の令和6年度決算について、それぞれ認定をお願いするものです。
なお、企業会計にかかる令和6年度決算については、監査委員の審査を経ておりますことを申し添えます。
最後に、報告事項について説明いたします。
報告第17号及び第18号は、議会の委任による専決処分をしましたので、報告するものです。
報告第19号は、議会の議決すべき事件以外の契約等について、条例に基づき、報告するものです。
報告第20号は、私債権の放棄について、条例に基づき、報告するものです。
報告第21号は、関係法律に基づき、企業会計の資金不足比率について報告するものです。
なお、企業会計の資金不足比率については、監査委員の審査を経ておりますことを申し添えます。
以上をもちまして提案の説明を終わります。
本定例月会議においても、引き続き、県議会議員の皆様におかれましては、我々執行部を厳しく監視いただくとともに、執行部と活発にご議論いただきますようお願い申し上げます。
なにとぞ、よろしくご審議いただきますようお願い申し上げます。