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平成27年03月18日

ヒノキ新植地における雑草木によるシカ食害軽減効果の検証

林業研究所 島田博匡

◆はじめに
 林業の採算性が悪化するなか、今後も持続的に林業経営を行うには育林コストの大半を占める初期保育コストの低減が不可欠です。そのようななかシカ高密度生息地域の下刈りと獣害防護柵を省略した新植地において、繁茂した雑草木のなかに混じって植栽木が成育した事例が報告されています。この方法によりシカ食害を軽減しながら植栽木を育成することが可能であれば、下刈りと獣害防護柵設置を省略できることから保育コストを低減することができます。そこで、本報告では、獣害防護柵を設置せずにヒノキ苗木を植栽し、下刈りを省略した新植地において、森林所有者の協力を得て植栽木の生残や成長、食害状況、雑草木の調査を行った結果から、雑草木による植栽木に対するシカ食害軽減効果を検証した事例について報告します。

◆調査地と方法
 熊野市内の2箇所の新植地(田井谷、矢ノ川)を試験地としました。田井谷は山頂付近、矢ノ川は谷沿いに位置する林地であり、両試験地ともに、2008年10~12月にかけて地拵えを行った後、2009年2月中旬~3月上旬に2年生のカミコウ2号挿し木苗が4,000本/haの植栽密度で植栽されています。植栽にあたっては、試験地の周囲に獣害防護柵の設置は行わず、植栽後は雑草木を繁茂させることを目的として、下刈りが1度も行われていません。
 2010年11月、植栽から2年後の両試験地に試験区を設置しました。田井谷では81m2のプロット2個を隣接させるように設けた試験区を試験地内の2箇所に設置し(以下、田井谷1、田井谷2)、各試験区の2個のプロットのうち1個の周囲には獣害防護柵を設けました(以下、獣害防護柵を設けたプロットを柵内、設けていないプロットを柵外)。矢ノ川でも田井谷と同様の方法で試験区を設置しましたが、プロット面積は100m2としています。
 この試験区において設定時(2年生時)の2010年11月から7年生時の2015年11月までの5年間、毎年1回プロット内の全植栽木の生残と生存木の樹高などを調査しました。また、雑草木によるシカ食害軽減効果を期待するうえで、植栽後初期に、いかに早く植栽木が雑草木に覆われるかが重要と考えられることから、各プロット内の中央付近に5m×5mの調査枠を設置し、試験区設定時に植生調査を行いました。

◆結果
 図1にヒノキ植栽木の生存率の変化を調査地毎に示します。田井谷では、柵外においてもシカ食害が軽微で、いずれのプロットでも7年生時までの生存率が高い傾向がみられました。それに対して矢ノ川では、柵内のプロットは生存率が高く、7年生時には80%程度の個体が生存していましたが、柵外のプロットではシカ食害が激しく、7年生時には、ほぼ全滅状態となっていました。
 図2に植栽木の2年生時から7年生時までの5年間の樹高成長量を示します。田井谷1では柵外が柵内より小さく、柵内外差がみられましたが、田井谷2では柵内外で同程度に成長していました。矢ノ川では柵内では田井谷と同程度の成長量がみられましたが、柵外の成長量はマイナスであり、柵内外差が大きくなっていました。なお、田井谷の柵内外、矢ノ川の柵内において、生存木に樹形異常はほとんど発生しておらず、将来の成林が期待できる状態でした。


図1.植栽木の生存率の変化


図2.植栽木の5年間の樹高成長量


図3.試験区設定時の雑草木の乗算優占度

 図3には、試験区設定時の雑草木量の指標として、雑草木の乗算優占度を示します。乗算優占度が最大のプロットは田井谷2で、次いで田井谷1でした。矢ノ川1と2の間にほとんど差はみられず、これらは田井谷の試験区よりも大幅に小さい傾向がみられました。このとき、田井谷では、いずれのプロットでもススキやウラジロ、コシダが繁茂し、プロットの大半が高さ2.5~3m程度のススキで覆われていました。一方、矢ノ川のプロットではマツカゼソウ、イワヒメワラビ、イズセンリョウ等が優占していましたが、植被率は低く、植生高も1m程度までとなっていました。
 次に、植栽後初期の雑草木量と植栽木に及ぼすシカ食害の影響量の関係を明らかにする目的で、各試験区の雑草木量の指標として、試験区設定時の柵内と柵外の乗算優占度の平均値、シカ食害の影響量の指標として、7年生時の各試験区の植栽木の柵内外の生存率差(%;柵内-柵外)と樹高差(cm;柵内-柵外)を用い、乗算優占度と柵内外の生存率差の関係を図4に、乗算優占度と樹高差の関係を図5に示します。乗算優占度が高くなるほど生存率差と樹高差(シカ食害の影響量)が小さくなる傾向がみられ、植栽後の早い時期からススキやウラジロが繁茂するなど雑草木量が多い箇所では一定のシカ食害軽減効果が得られることがわかりました。


図4.試験区設定時の雑草木の乗算優占度と7年生時の植栽木の柵内外の生存率差の関係


図5.試験区設定時の雑草木の乗算優占度と7年生時の植栽木の柵内外の樹高差の関係

◆おわりに
 今後、このような雑草木によるシカ食害軽減効果を低コスト育林に活用するには、植栽直後の雑草木の侵入速度やシカ生息密度がシカ食害軽減効果の大小に及ぼす影響、苗木品種のシカ食害耐性と食害後の成長に関する特性を明らかにし、効果が発揮できる立地条件や適切な苗木品種を選択できるようにすることで確実性を高めていく必要があります。
 また、現状では獣害防護柵を省略することは困難と考えられますが、獣害防護柵を設置してもシカに侵入されるケースも多いことから、今回得られた知見は、シカに侵入された場合の被害を極力抑えるための雑草木の取り扱い、下刈りの方法や頻度を検討するうえでも良いヒントになるものと考えられます。

本ページに関する問い合わせ先

三重県 林業研究所 企画調整課 〒515-2602 
津市白山町二本木3769-1
電話番号:059-262-0110 
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