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平成27年03月18日

捕獲によりニホンジカの出現頻度はどう変わるか?
 ~ モデル地区におけるニホンジカ捕獲実証試験の結果から ~

三重県林業研究所 川島直通

 三重県において、ニホンジカ(以下、シカ)の個体数増加による農林業被害がここ何年も大きな問題となっています。シカによる被害軽減のためには捕獲により個体数を減少させることが重要であることから、三重県林業研究所では三重県農業研究所や兵庫県立大学と連携し、伊賀市子延地区をモデル地区としたシカ捕獲の実証試験を実施してきましたので、今回、その結果をご紹介します。

(シカによる被害と捕獲による対策)
 近年、シカの個体数増加により農林業被害や自然植生への被害が全国的に大きな問題となってきました。三重県においても例外ではなく、林業分野では植栽苗木の採食や成木の樹皮はぎといった被害が継続して発生していることから、防護柵や単木防護資材の設置等の被害対策は欠かせないものとなっています。また、その影響は人工林のみならず、過度の採食により自然植生にも及んでいます。
 シカによる被害を軽減させるには、獣害防護柵等の被害対策に加え、捕獲によりシカ個体数を減少させる必要があると考えられます。三重県では、2007年度からの県内全域におけるメスジカの狩猟解禁、2012年度からの1日1人あたりの捕獲頭数上限の無制限化(ただし、オスジカの場合は条件あり)といった捕獲制限の緩和、鳥獣被害防止特別措置法に基づく被害防止計画に沿った捕獲の推進等に伴い、シカ捕獲数は増加傾向にあります(図1、三重県獣害対策課からデータ提供)。


図1.三重県におけるニホンジカ捕獲数の推移(三重県獣害対策課からデータ提供)

 しかし、シカの生息密度はまだ高い水準にあり、農林業被害を抑えるためには捕獲によりさらに個体数を減少させていく必要のある段階です。そのため、効果的にシカの生息密度を低減させる捕獲方法を明らかにし、各地で捕獲を推進していく必要があります。また、捕獲によりシカ生息密度を低下することに成功したとしても、その水準を維持するためには継続的な捕獲努力が必要であると考えられます。そのため、低密度化が成功した後、捕獲の強度を変えることによってシカ密度がどのように変化するのかといった情報も蓄積していく必要があります。
 このような背景から、林業研究所では三重県農業研究所や兵庫県立大学と連携し、シカ捕獲の実証試験を2017年から2020年まで継続して実施してきました。この試験では、モデル地区内でシカを実際に減らすことができるのか、減らした後のシカ出現頻度がどのように変化していくのかということについて調査しています。今回は2020年9月末時点までのシカ捕獲実証試験の結果をご紹介します。

(農林併行捕獲による実証試験)
 今回の実証試験では、伊賀市子延地区がモデル地区として設定され、農地周辺においてICTを活用した囲いわな(遠隔監視・操作捕獲システム)によるシカの集中捕獲を行うとともに、農地の後背山林において、くくりわなによる捕獲を行う「農林併行捕獲」が実施されています(図2)。


図2.実証試験地における自動撮影カメラ及びわなの設置位置

 2017~2018年度にかけてはシカの出現頻度の低下を目的として集中的な捕獲が行われました。一方、2019~2020年度にかけてはわなの設置基数や捕獲期間を減らして捕獲が行われました。捕獲により野生鳥獣の個体数に与える影響のことを捕獲圧と呼びますが、捕獲圧が大きな期間(2017~2018年度)と捕獲圧が小さな期間(2019~2020年度)を設けたことになります。
 それぞれの捕獲期間において、実証試験地内のシカ出現頻度や季節変化などを明らかにするために、モデル地区の後背山林に16台の自動撮影カメラを設置し、シカ撮影回数をカウントしました(図2)。これにより、シカが実際に何頭いるのかはわかりませんが(個体数を推定する方法もありますが、今回の実証試験では実施していません)、試験期間中、ずっと同じ場所にカメラを設置しているため、シカの相対的な出現頻度の変化を把握することができると考えられます。シカは季節によって出現しやすい場所や活動の活発さが変わることが予想されるため、月ごとにシカ撮影回数を合計し、それぞれの年度間で同じ月のシカ撮影頻度を比較しました。

(捕獲結果とシカ出現頻度の変化)
 2017~2018年度にかけては集中的な捕獲が行われた結果、2017年度は32頭、2018年度は22頭のシカが捕獲されました(図3)。実証試験地はおよそ1 km2にも満たない比較的狭い範囲ですので、この期間は実証試験地においてとても大きな捕獲圧がかかったことになります。一方、2019~2020年度にかけては捕獲圧が低下し、2019年度は13頭、2020年度(9月末時点)は6頭のシカが捕獲されました(図3)。


図3 実証試験地におけるニホンジカ捕獲数の経時変化
(囲いわなの捕獲数は三重県農業研究所からデータ提供)

 それぞれの年度間で同じ月のシカ撮影頻度を比較した結果、捕獲圧の大きな期間(2017~2018年度)では、2017年度と比較して2018年度で大きく撮影頻度が低下していることがわかりました(図4、図5)。このことから、農林併行捕獲により、早期にシカ出現頻度を低下させられることがわかりました。一方、捕獲圧の小さな期間(2019~2020年度)では、いったん減少した撮影頻度が再び増加していくことがわかりました(図4、図5)。


図4.2017~2020年の月別のシカ合計撮影回数


図5.各年の7月のシカ撮影回数の空間分布

 捕獲を全く行っていないわけではなく、一定数は捕獲しているにも関わらず、2017年度と同水準までシカ出現頻度が回復する月もあったことから、少なくとも集落スケールで捕獲を進める場合、密度が低下した後も気を緩めることはできず、継続的に捕獲を続けていく努力が必要であると考えられます。

(さいごに)
 今回の実証試験では集中的な農林併行捕獲により、シカ出現頻度を早期に低減できる一方で、捕獲圧を下げると再び増加することがわかりました。密度が低下した後はシカ捕獲の効率が低下することが予想されるため、シカ密度を維持またはさらに低減させるためには、より効率的に捕獲することが求められます。今後も効率的にシカを捕獲するための方法について検討していく予定です。

本ページに関する問い合わせ先

三重県 林業研究所 企画調整課 〒515-2602 
津市白山町二本木3769-1
電話番号:059-262-0110 
ファクス番号:059-262-0960 
メールアドレス:ringi@pref.mie.lg.jp

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