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平成27年03月18日

調整伐と伐採木を利用した土砂止が森林の表土保全に及ぼす効果

三重県林業研究所 島田博匡

 みえ森と緑の県民税を活用した「災害に強い森林づくり推進事業 効果検証にかかる調査・研究事業」で明らかになった成果などから、人工林における調整伐と伐採木を利用した土砂止が表土流出抑制に果たす効果について説明します。

◆はじめに
 災害に強い森林づくり推進事業「災害緩衝林整備事業」の整備目的の一つに山腹部の森林における表土流出(表土移動)抑制が挙げられます。このために、事業では調整伐と調整伐で伐採した木を等高線方向に横並べした土砂止の設置(写真-1)を行っていますが、なぜこのような施業が表土移動の抑制につながるのでしょうか?林業研究所では調整伐実施と土砂止設置による表土移動抑制効果を明らかにするため、県下の様々な条件下で土砂移動量などの観測を行っています。本稿では、これまでの成果を交えながら、表土移動抑制に及ぼすこれらの施業効果とその要因について説明します。

 
写真-1.伐採木を横並べした土砂止(大台町)

◆表土移動を防ぐには林床被覆が重要
 表土移動は主として降雨によってもたらされ、林床の土壌表面に雨滴が直接当たることで発生する雨滴衝撃による飛散と土壌表面を雨水が流れる表面流により移動しますが、わが国の林地斜面では表面流の発生は少なく、雨滴衝撃が主たる要因であるとされています。そのため、これを防ぐには雨滴が直接、土壌表面に当たらないようにする必要があり、土壌表面を植生や落葉落枝により覆うことが重要となります。
 この植生や落葉落枝による土壌表面の被覆は「林床被覆」、ある面積の土壌表面が林床被覆で覆われる割合は「林床被覆率」と定義され、林床被覆率を高めることが表土移動抑制のために重要です。落葉落枝の被覆率は人為的にコントロールすることが困難ですが、植生の被覆率は林床の光環境改善により高めることが可能です。そのため、調整伐を適度に行い、林床の光環境を高めて林床植生を侵入させることが重要です。なお、傾斜は落葉落枝の被覆に影響することで間接的に表土移動に関係しますが、直接的な影響(重力移動)はわずかです。
 図-1に、試験地において林床被覆率と土砂移動を6年間観測した結果を示します。前述のように表土移動は主として降水に伴うものであることから、基本的には降水量が多いほど表土移動量も多くなります。そのため、降水量の影響を無くすために、観測期間の土砂移動量(g m-1)を降水量(mm)で除することで求めた降水量1mm当たりの土砂移動量(g m-1 mm-1; 以下、土砂移動レート)により、土砂移動の評価を行います。図-1では年単位で土砂移動レートを計算した結果を示しています。大台試験地スギ林では、調整伐実施直後から林床被覆率が高まり、それに伴って土砂移動レートが減少しました。白山試験地ヒノキ林では調整伐後に林床被覆率が一度低下し、土砂移動レートが増加していますが、植生の侵入による林床被覆率の増加に伴い(写真-2)、調整伐後3年目(2018年)以降には土砂移動レートが減少しました。
 


図-1.林床被覆率と土砂移動レートの経年変化
(大台試験地スギ林と白山試験地ヒノキ林の例)
 

a)調整伐前(2015) b)調整伐後5年目(2020)
写真-2.同一地点における調整伐後の林床被覆の変化(白山試験地ヒノキ林の例)
 これらの結果のとおり、林床被覆率と土砂移動レートの変化は連動しており、調整伐によって林床被覆率を高めることで土砂移動レートが減少することが本研究の成果からも裏付けられました。

◆土砂止の効果は土砂移動が激しい場所ほど大きい
 図-2に土砂止を設置した処理区(以下、土砂止有区)と設置しない処理区(以下、土砂止無区)ごとに年単位の林床被覆率と土砂移動レートの関係を解析した結果を示します。いずれの試験地においても林床被覆率が高いほど、土砂移動レートが少ない傾向があり、林床被覆率80%以上ではほとんど土砂移動がみられませんでした。
 また、土砂止の効果について、いずれの試験地でも土砂止有区は土砂止無区よりも土砂移動レートが少なく、両者の差は林床被覆率が低いほど大きい傾向がみられました。つまり、植生や落葉落枝による林床被覆率が低く、土砂移動レートが大きくなる場所ほど、土砂止は有効に機能することが明らかになりました。このような場所では土砂止が物理的な障壁となって雨滴飛散や表面流による土砂移動を抑制することで効果を発揮したと考えられます。実際,土砂移動レートが比較的大きかった処理区では土砂止の背後に土砂が堆積し,丸太表面には飛散土砂が付着していることか観察されました。

 
図-2.林床被覆率と土砂移動レートの関係(大台試験地と熊野試験地の例;島田ら(2020)を改変)

 また、土砂止は土砂が移動してはじめて効果を発揮するものであり、林床被覆率が高い場所では、林床被覆による土壌表面の保護効果により土砂移動自体が発生しにくいため、土砂移動に対する物理的障壁である土砂止がほとんど土砂移動レートに影響しなかったものと考えられます。

◆おわりに
 調整伐によって林床被覆率を高めることで土砂移動を少なくできること、林床被覆率の低い場所ほど土砂止設置により土砂移動を抑制できることが明らかになりました。なお、本研究の観測期間中の最大日降水量は500mm程度であり、この程度の日降水量であれば、林床被覆率が高い場合、土砂止が無くても土砂移動レートは少ないと考えられます。しかし、三重県において過去にはさらに多量の日降水量が観測されており、このような豪雨時には林床被覆率が高い場所でも土砂移動レートが大きくなる可能性があります。また、林床被覆率は降水、風、重力、動物活動などの影響で変化する可能性があり、高いままで保たれるとは限りません。そのため、林床被覆率が高い場所においても土砂止を設置する必要があります。

<参考文献>
 島田博匡・沼本晋也・野々田稔郎(2020)スギ・ヒノキ人工林における林床被覆と間伐木を利用した筋工が表土移動に及ぼす影響. 日緑工誌46: 63-68.
 

本ページに関する問い合わせ先

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津市白山町二本木3769-1
電話番号:059-262-0110 
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メールアドレス:ringi@pref.mie.lg.jp

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