三重県情報公開審査会 答申第82号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書の非開示決定を取消し、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成11年7月9日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「中南勢水域流域別下水道整備総合計画(以下「中南勢流総計画」という。)」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が7月23日付けで行った非開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
なお、開示請求の対象となったのは、中南勢流総計画を変更するため作成したものであり現在建設大臣に申請中の下記の公文書(以下「本件対象公文書」という。)である。今後建設大臣が環境庁長官と協議をし、その後県が承認を受けるものである。
記
「(平成10年度)中南勢水域流域別下水道整備総合計画の変更承認申請について(伺い)」
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第8条第4号(意思形成過程情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
本件対象公文書は中南勢流総計画を変更するため作成したものであり、現在建設大臣に申請中である。今後建設大臣が同計画について環境庁長官と協議することとなっており、この協議の中で内容に変更が生じる可能性があることから、この状態で開示することにより、県民に誤解を与え又は無用の混乱を招くおそれがあると考えられる。
よって、建設大臣の承認後は、公開することを考えているが、現時点では条例第8条第4号に該当するため開示できない。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
(1) 中南勢流総計画について
中南勢流総計画には、下水道法の規定に基づき下水道の整備に関する基本方針や根幹的施設が明記されているが、それらが開示されることにより同計画の推進に著しい支障が生ずるおそれがあるとは到底考えられない。何故なら、それらは既に各下水処理場の基本計画として一般に明らかにされている事項である。万が一、非開示情報に該当する部分があったとしてもそれはごく一部であると考えられ、全てを非開示とした本決定は不当であり、著しい支障のない部分は開示すべきである。
(2) 本件対象公文書について
本件対象公文書は建設大臣が審査中のものではあるものの、それは単なる案ではなく申請書であり、県の意思は確定しているものである。
また、建設大臣に申請中で承認が得られるまで非開示との実施機関の決定は、情報公開条例が「県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進することを目的とする(第1条)」との観点から容認できない。本来は、意思形成過程すなわち政策形成過程にこそ住民の参加を求め、意見を反映させることが必要である。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方について
条例の目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進する、というものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)第4号(意思形成過程情報)の意義について
本号は、行政における内部的な審議、検討、調査研究等が円滑に行われることを確保する観点から定められたものである。
(3)第4号(意思形成過程情報)の該当性について
本件対象公文書は、三重県知事が中南勢流総計画の変更をするため、下水道法の規定に基づき建設大臣あて承認の申請をしたものである。今後建設大臣が環境庁長官と協議をする中で同計画の内容に変更の可能性があり、承認を得ていない現段階で本件対象公文書を開示することにより、県民に誤解や無用の混乱を招くおそれがあると、実施機関は、主張している。
しかしながら、今後変更の可能性のある情報であっても、それを開示することによって当該計画等に著しい支障が生ずる客観的なおそれがあるか否かという点について判断しなければ、条例第8条第4号に該当するとは言えない。そこで、以下について判断することとする。
実施機関が主張するように、仮に本件対象公文書が今後変更の可能性のある情報であっても、その旨を明示して開示することによって、県民に無用の誤解や混乱を招くおそれを回避し得る。
また、本件対象公文書は、当初の中南勢流総計画を変更したものであり、主な変更内容は、人口変異、工業出荷額の伸び、河川等の基準変更など客観的データの変更であり、それらを現時点で開示することにより、当該又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障を生ずるおそれがあるとは言えない。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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11.9.29 | ・諮問書受理 |
11.9.29 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
11.10.13 | ・非開示説明書受理 |
11.10.14 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
11.11.4 | ・意見書及び口頭での意見陳述申出書受理 |
12.3.9 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 (第106回審査会)
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12.3.27 | ・審議 ・答申 (第107回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 樹神 茂 | 三重大学人文学部教授 |