三重県情報公開審査会 答申第108号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成12年12月25日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「中勢沿岸流域下水道(志登茂川処理区)志登茂川浄化センター建設に係る環境影響評価等についての業務委託契約に関する一切の文書」(以下「本件対象公文書」という。)の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成13年1月18日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
なお、実施機関は、本決定を行うにあたって、平成12年12月27日付けで期間延長通知を異議申立人に送付している。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第7条第2号(個人情報)、第3号(法人情報)及び第6号(事務事業情報)に該当するとして非開示決定が妥当というものである。
(1)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書に記載されている財団法人三重県環境保全事業団(以下「事業団」という。)の職員の氏名及び当該職員の有する資格については、当該事業に公的な性格がある点を鑑みて開示決定をした。しかし、当該職員の生年月日、住所、電話番号、最終学歴、資格取得年月日、事業団以外での職歴とその入社年月及び事業団の採用年月は個人に関する情報であり、非開示が妥当である。
(2)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書のうち、設計業務等成績調書については、県の職員が当該委託事業について採点したものであり、そこに記載されている「成績点数に係る部分」は、委託事業者指名選定時の資料となり得るため、事業団の活動に大きな影響を与え、公にすることで競争上の地位その他の正当な利益を害するおそれがある。また、受注業者にとっては個人のプライバシーと同様に保護されるべき情報であり、非開示が妥当である。
(3)条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
ア 本件対象公文書のうち、設計業務等成績調書の「成績点数に係る部分」について 当該情報については、開示することは、事業者の意欲を喚起するという面もあるが、事業者の「手抜き」を招くことによる不利益の方が大きいと判断する。
イ 本件対象公文書のうち、工事設計書(変更設計書も含む)の「工事単価に係る部分」について 工事単価については、県が入札予定価格を算定するための基礎となるものであり、これらの情報を開示することにより、今後同種の事業の入札予定価格が容易に推測されることとなる。入札予定価格が推測されると、今後同種の事務の適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるため非開示とした。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
- 本件対象公文書に記載されている事業団の職員は、県の名で発表する報告書等の調査や取りまとめに関与した者である。税金によって行われる調査等に適する者か否かを判断するためには、経験年数がひとつの指標となり得、他の事案ではこの部分を開示されたことがある。本件対象公文書に事業団の職員の経験年数の記載部分はないが、それに替わるものとして「採用年月」が開示されて然るべきである。
- 「工事単価に係る部分」を非開示としたことは、実施機関と事業団との癒着関係を示している。当該部分は当然開示して、自由競争に基づく入札等の手段をとる方がより安価で良質の調査ができるものと思われる。
- 「成績点数に係る部分」については、開示することでむしろ他の事業者に県の力点を示し、事業の水準を向上させるはずである。
また、実施機関が当該部分を非開示とした理由として、以下の点が考えられる。「成績点数」は、県の職員が採点しているが、彼等は生物調査等に関しては素人である。また、成果品たる調査報告書にも創意工夫の跡がみられず、調査の質を高める努力を怠っている。このような事業を素人が採点した成績点数を開示したくないのは当然であろう。
5 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
異議申立人が主張する事業団の職員の「採用年月」について以下に検討する。
事業団は、県を含めた地方公共団体の出資比率が50%に達する法人であり、その事業も公的な性質を強く有していることから、一般の民間企業とは異なる団体である。そのことを考慮すると、事業団に関する情報はできるだけ開示していくことが好ましい。
また、異議申立人の主張のとおり、職員の経験年数は事業団の職員が当該事業に適性のある者か否かを判断するために有効な情報になり得、その意味では「採用年月」は資格に準ずる情報であるといえる。事業団の職員が有する資格等の情報などを実施機関が既に開示していることを考え併せると、当該情報は、第2号(個人情報)には該当しないと判断すべきである。
なお、実施機関が個人情報に該当するとして非開示とした「採用年月」以外の部分については、異議申立人は特に異議を唱えなかったため、審査会として判断しない。
ところで、実施機関は、個人情報に該当するとして非開示とした部分について、同種の情報(例えば、事業団の職員の前の職歴など)を一方では非開示として、他方では開示するなど、開示・非開示の判断に統一性がない。また、非開示とした理由の付記に関しても、十分な記述がされているとはいえず、今後は適正な事務処理を行うことが望まれる。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることを定めたものである。 法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に開示が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
設計業務等成績調書の「成績点数に係る部分」については、委託業者指名選定時の資料となり得るため、当該事業団の活動に与える影響は大きく、公にすることで競争上の地位その他正当な利益を害するものである、と実施機関は主張している。
しかしながら、本件対象公文書は、事業者全体を詳細に評価しているわけではなく、当該委託事業についてのみ、既に実施機関が開示している一定の基準及び様式に沿って、事業が適正に執行されたかどうか採点したものである。したがって、開示することによって事業団の正当な利益を損なうおそれがあるとはいえず、本号(法人情報)には該当しない。
(6) 条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
(7) 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
実施機関は、本件対象公文書のうち、工事設計書(変更設計書も含む)の「工事単価に係る部分」及び設計業務等成績調書の「成績点数に係る部分」の2ヶ所について条例第7条第6号(事務事業情報)に該当すると主張している。
そこで、以下のとおりそれぞれ検討する。
ア 工事設計書(変更設計書も含む)の「工事単価に係る部分」について 当該情報は、県が予定価格を決定する際の基準となり、開示されれば今後の事業に大きな影響を及ぼし得る情報である、と実施機関は主張している。 確かに、本件事業内容の性格上、単価のほとんどが設計金額を算出するために使用された人件費の単価であり、本件設計単価を開示することにより、今後同種の工事の設計金額が容易に推測され、事務の適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれは否定できない。そのため、実施機関の主張するとおり、当該情報は本号(事務事業情報)に該当する。 ただし、当該情報のうち「測量及び試験費用内訳表」については、設計金額総額の内訳や概要を示した文書であり、設計金額算定のための個々の単価が記載されているわけではない。既に設計金額総額を開示しており、その内訳や概要を公にすることで事業の執行に与える影響は軽微であると推測される。よって、「測量及び試験費用内訳表」については本号(事務事業情報)に該当せず、開示すべきである。
イ 設計業務等成績調書の「成績点数に係る部分」について 当該情報を開示することで事業者の「手抜き」を招き、事務事業に重大な支障を及ぼすおそれがあると実施機関は主張している。 しかしながら、もし実施機関の危惧するように、事業者の「手抜き」により事業の質が低下した場合には、その評価方法を見直す等の処置をすべきであり、「成績点数」を開示することによって事業者の「手抜き」を招来するとの実施機関の主張を認めることはできない。 よって、当該情報は本号(事務事業情報)には該当せず、開示すべきである。
(8) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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13. 2.19 | ・諮問書の受理 |
13. 2.19 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
13. 3.21 | ・非開示理由説明書の受理 |
13. 3.22 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
13. 3.22 | ・口頭での意見陳述申出書の受理 |
13. 8.31 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第137回審査会)
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13. 9.18 | ・審議
(第139回審査会)
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13.10.16 | ・審議 ・答申 (第141回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。