三重県情報公開審査会 答申第118号
答申
1 審査会の結論
本件異議申立ての対象となった公文書を実施機関が作成、管理していない以上、実施機関が行った不存在決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成13年10月12日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「中勢沿岸流域下水道(志登茂川処理区)事業の費用効果分析(平成13年8月7日推進協議会第2回委員会に提出したもの)を行った事業者と費用がわかる書類」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成13年10月22日付けで行った不存在決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の不存在理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、該当する公文書は存在せず、不存在決定は妥当というものである。
- 開示請求内容の平成13年8月7日に開催された中勢沿岸流域下水道(志登茂川処理区)事業推進協議会に提出した費用効果分析は、現在係争中の中勢沿岸流域下水道 (志登茂川処理区)事業に関する裁判所提出用として県職員独自で作成した資料の一部であるため、異議申立人が請求している費用分析を行った事業者及び要した費用については存在しない。
- 次に、異議申立人が異議申立て理由で主張しているように、委託業務でなく県職員独自で作成している場合、どの部署の職員がどれぐらいの期間この費用効果分析に携わったかが分かる文書についても県職員が通常業務として行っており、特に公文書として作成しておらず存在しない。また、中勢沿岸流域下水道推進協議会に提出する資料として内部決裁した文書も、近日中に裁判所へ提出する予定になり公になる文書であることから、あえて文書による決裁をしておらず存在しない。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っている、というものである。
- 費用効果分析の公文書について、どのように作成したかについて実施機関へ問い合わせたところ、担当者から外部委託したと聞いたので、どこに依頼したか知りたく公文書開示請求を行ったが、実施機関は、委託業務は行っていないとの理由で不存在決定をした。外部委託したことについて、確固たる証拠はないが、なんらかの形で外部委託し、公文書が存在しないことはあり得ない。
- また、仮に県職員独自に作成したのであれば、どこの部署のどの担当者が何人でどれくらいの期間この分析にかかわったかが知りたい。少なくとも推進協議会に提出するのに「これでよい」との決裁の書類などは存在するはずである。 また、委託業務としては行わなくとも、県以外の事業者が分析した結果を県が入手することも可能と思われる。
- 以上のことから、費用効果分析を行った事業者(県であれば、どこの部署のどの担当者が行ったか)と、この分析結果を県が入手するために負担した費用(県自身が行った場合は、何人の担当者がどのくらいの期間を要したか)という観点で再度の公文書の公開を求める。
5 審査会の判断
1. 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
2.「中勢沿岸流域下水道(志登茂川処理区)事業の費用効果分析を行った事業者と費用がわかる書類」の不存在について
平成13年8月7日に開催された中勢沿岸流域下水道(志登茂川処理区)事業推進協議会に提出した費用効果分析は、委託業務でなく県職員独自で作成したものであるから、その作成した事業者と費用についてわかる書類については存在しない、と実施機関は説明している。一方、異議申立人は、以前実施機関へ費用効果分析の作成について問い合わせたところ委託業務であると説明を受けたと説明している。
そこで当審査会が、実施機関から聴き取り調査したところ、費用効果分析については実施機関の職員が(社)日本下水道協会発行の「下水道事業における費用効果分析マニュアル」をもとに作成し外部委託は行っていないが、作成事例があまりないので不明な点が多く、下水道協会担当者やマニュアル作成に携わったコンサルタントへ何度も問い合わせをしたため、異議申立人からの問い合わせに対して県職員のみが独自で作成したとは断言しなかったと説明している。
このような説明を受けて異議申立人が該当する公文書が存在すると解し、開示請求をしたことは理解でき、この点については実施機関の説明が不十分であったものと言わざるを得ない。
しかしながら、 実施機関が説明するように通常業務の範囲で県職員が作成したという説明に不自然な点はなく、他に外部に委託したという事実が認められない以上、委託業務のかかる公文書が存在しないとする実施機関の決定に誤りがあったと認めることはできない。
異議申立人は、請求内容について、委託業務先やその費用そのものの開示を求めたのではなく、委託業務でなく仮に県職員独自で作成した場合は、どの部署のどの職員がどれくらいの期間で作成したのかがわかる公文書、外部委託しなくても分析結果を県以外の事業者から入手したのであれば、それらの公文書の開示を求めたのである、とあわせて主張しているので、この点について検討する。実施機関が本決定に際して付記した「委託業務ではないので存在しない」との理由については、請求の趣旨を誤って解釈したものであると言わざるを得ないが、前述のとおり実施機関の職員が通常業務の範囲内で既存のマニュアル等を利用することによって作成したのであるから、異議申立人が求めた内容の公文書が存在しているとは認められず、実施機関の本決定は妥当である。
また、異議申立人が存在を主張している推進協議会へ提出するための内部決裁文書も、「裁判所へ提出する資料としては事前に内部決裁したが、推進協議会へ提出した公文書はその一部であり内部決裁をしなかった」との実施機関の説明は不自然とは言えない。以上のことから、当該請求内容に該当する公文書が存在しないとする実施機関の本決定は妥当である。
3. 結論
よって主文のとおり答申する。
6 審査会からの提言
当審査会の結論は以上のとおりであるが、一般県民が開示請求する場合、県の保有する公文書の件名等を知り得ることは少なく、請求者が公文書を特定することが困難な場合が多いと考えられるので、実施機関は公文書の特定に必要な情報を提供する必要がある。本件事案については、実施機関は開示請求にあたり公文書の特定作業で請求者と十分な話し合いを行わず、公文書開示請求書に記載された内容を形式的に限定して解釈し、本決定を行なったことが、かえって異議申立人の不信感を深めたところがある。開示請求にあたり請求者と十分な調整を図ることが不可能であれば、請求の趣旨を幅広く解釈したうえで、公文書を特定する必要があったと考えられ、実施機関には反省が求められるところである。
また、求められている情報が公文書として存在しないのであれば、実施機関として条例上の開示・非開示等の判断とは別に情報提供ができないか検討する必要がある。本件事案の場合は、比較的容易に情報提供ができたものもあったのではないかと考えられる。県民と情報を共有し、もって県民の県政に対する理解と信頼を確保せんとする条例の趣旨に鑑み、条例上の請求に対しては請求者と直接連絡を取る等、請求内容の確認に努められるとともに、該当する内容の公文書がない場合であっても他の資料等で代替することによって情報提供できないか検討し、情報公開制度がより信頼性の高いものとなるよう努められることを要望する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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13.12.27 | ・諮問書の受理 |
14. 1. 8 | ・実施機関に対して不存在理由説明書の提出依頼 |
14. 1.28 | ・不存在理由説明書の受理 |
14. 1.29 | ・異議申立人に対して不存在理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼 |
14. 2.14 | ・書面審理 ・実施機関の不存在理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第147回審査会)
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14. 3.22 | ・実施機関の補足説明の聴取 ・審議 (第149回審査会)
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14. 4.23 | ・審議 ・答申 (第151回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。