三重県情報公開審査会 答申第125号
答申
1 審査会の結論
本件異議申立ての対象となった公文書のうち、実施機関が当初の部分開示決定を一部取り消したうえで行った部分開示は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成13年12月14日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成12年度県監査委員の県税収入の未納金及びこれに関連する県税の監査に関する一切の情報 外」との開示請求に対し、三重県監査委員(以下「実施機関」という。)が平成13年12月26日付けで行った部分開示決定の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件対象公文書は、実施機関が平成13年度に実施した県内県税事務所にかかる予備監査復命書(8県税事務所分)、委員監査復命書(7県税事務所分)及び平成12年度三重県歳入歳出決算審査意見書である。このうち、3県税事務所分の委員監査復命書及び平成12年度三重県歳入歳出決算審査意見書については、当初の決定において全面開示している。
なお、実施機関は当初の部分開示決定において、本件対象公文書中に記載の「個人の氏名(実施機関の職員(以下「職員」という。)を除く。)」、「個人(職員)の年齢」、「職員の休暇情報及び時間外勤務時間数」、「個人(職員)の収入がわかる部分(所得額、勤務日数)」、「滞納個人名」、「滞納額(滞納税目、収入未済額、調定年度を含む。)」が条例第7条第2号(個人情報)に、「納税及び滞納法人名(業を営む個人を含む。以下同じ。)」」、「納税額及び滞納額(滞納税目、収入未済額、調定年度を含む。)」、「法人の経営戦略及び経営状況」が第7条第3号(法人情報)に、それぞれ該当するとして非開示としたが、別の事案における当審査会の平成14年2月14日付け答申第112号を尊重し、当初の決定で非開示とした情報のうち、「滞納額(収入未済額)」、「調定年度」、「納税法人名及び納税額」、県税事務所毎の職員の「平均年齢」及び「時間外勤務時間数(合計)」、「法人の経営戦略、経営状況に関する情報」のうち「高額滞納者の現況等に関する情報」を除く部分については、当初の部分開示決定を一部取り消し、当初の決定日以後開示している。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、部分開示決定が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
本件対象公文書のうち、「個人の氏名(職員を除く。)」、「滞納個人名」、「個人の滞納税目」、「高額滞納者の現況等に関する情報」、「個人(職員)の年齢」、「職員の休暇情報及び時間外勤務時間数」、「個人(職員)の収入が分かる部分(所得額、勤務日数)」については、個人に関する情報であり、開示することにより個人が識別又は識別され得るため、非開示が妥当である。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)に該当
本件対象公文書に記載されている、「滞納法人名」、「滞納税目」、「法人の経営戦略、経営状況に関する情報」のうち「高額滞納者の現況等に関する情報」は、法人に関する情報であり、開示することにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため、非開示が妥当である。
5 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
- 滞納法人については、適正な税徴収が行われているのかを県民に開示し、税徴収の不公平感をなくすことに全力を注ぐべきであって、一部の企業に対し、税徴収の不合理な程の長期間にわたって猶予したり、一部免除したり、あるいは延滞金を徴収しなかったり、免除したり、あるいは、本税を不納欠損としてこっそりと処理しているなど、県民不在の情実税行政の横行を廃止・防止するという公益的な意味から是非とも公開されるのが相当な情報である。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
なお、前述のとおり、実施機関は当初の部分開示決定を取り消し、一部開示を行っているため、なお非開示とされている部分について、当審査会として以下に判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示するべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書には、「個人の氏名(職員を除く。)」、「個人(職員)の年齢」、「個人(職員)の休暇情報及び時間外勤務時間数」、「個人(職員)の収入が分かる部分(所得額、勤務日数)」に関する情報が記載されており、この部分について、実施機関は原決定で本号(個人情報)に該当するとして非開示としている。そこで、以下のとおり検討する。
本号が「公務員の職務に関する情報」を個人情報の中から原則として除外したのは、仮に公務員個人が識別され、公務員個人のプライバシーが問題となりうる余地があったとしても、職務の公益性から開示されてもやむを得ないと解されるからである。
しかしながら、当該情報については、公務員個人の私的な情報であり、本号に該当する。また、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあることを鑑みると、これを上回るほどの公益性も考えられず、同号ただし書きロにも該当しない。
なお、職務上の経験年数を知るうえで職員の年齢も開示すべきであると異議申立人は主張しているが、年齢そのものは、職員の経験年数を直接反映しているわけではなく、公務員個人の私的な情報である。
よって、非開示が妥当である。
なお、実施機関は、「滞納個人名」、「個人の滞納税目」、「高額滞納者の現況等に関する情報」については、本号(個人情報)に該当し非開示が妥当であると説明しているが、当審査会がインカメラ審理により本件対象公文書を確認したところ、これらの情報について実施機関が個人に関する情報であると説明しているものについては、いずれも業を営む個人に関する情報であると認められる。業を営む個人の情報については、条例第7条第3号(法人情報)に該当するか否かを判断すべきであるため、後述する。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることを定めたものである。法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に開示が義務づけられることになる
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書には、「高額滞納者の現況等に関する情報を含む法人の経営戦略及び経営状況」、「滞納法人(業を営む個人も含む)名」、「滞納税目」が記載されており、これらは法人に関する情報であり、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると実施機関は主張している。
一方、異議申立人は、これらの情報は、県税の徴収という公益に関する情報であり、本件事案の法人に関する情報については全てが公開されるべきであると主張している。そこで、以下のとおり検討する。
ア 「法人の経営戦略及び経営状況」について
当該情報は、一部の県税事務所にかかる委員監査復命書及び予備監査復命書に記載されたものであり、特定の法人の経営戦略、経営状況に関する情報ではある。
しかし、現在において一般的に周知になっている情報まで特に秘匿する利益はなく、開示することによって当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると判断される情報以外は開示すべきである。このような考え方に沿って、実施機関は当初の部分開示決定を取り消し、法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると判断される情報を除いては、開示したところである。
依然として非開示としている部分のうち、法人の経営戦略、経営状況について記載されているものは、いずれも「高額滞納者の現況等に関する情報」として分類して判断すべきであり、後述する。
イ 「滞納法人(業を営む個人も含む)名」、「滞納税目」、「高額滞納者の現況等に関する情報」について
当該情報のうち「滞納法人(業を営む個人も含む)名」については、開示することにより、当該法人が滞納している事実が明らかになる。
確かに租税は、本来納期限内に納めるべきものであり、それを怠った者(滞納者)の競争上の地位等を保護することに疑問を抱くことは理解できなくはない。しかし、滞納者の滞納する行為は、種々の要因により発生するものであり、滞納法人を直ちに悪質な法人であると断ずることはできない。
一方、懸命に再建を図ろうとしている企業(法人)にとっては、滞納の事実が判明すると、取引条件の変更を求められたり、取引を停止されるなどの致命的ともいえるような重大な不利益をもたらす可能性が十分にある。
したがって、当該情報については、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると判断できるため、第3号(法人情報)に該当する。また、県税の公平な徴収事務がなされているかを審査する必要があることは理解できるものの、情報公開条例は、広く何人に対しても開示する制度である以上、審査目的のために限定された開示というわけにもいかず、当該法人の関係者等にも広く開示され、その場合には上記のような重大な不利益をもたらす可能性があることに鑑みると、これを上回るほどの公益性も考えられず、同号ただし書きハにも該当しない。
よって、非開示が妥当である。
次に、「滞納税目、高額滞納者の現況等に関する情報」については、個々の滞納者の状況等を要約したものであり、他の情報を組み合わせることにより法人が特定される可能性が否定できず、上述のとおり滞納法人名を非開示妥当であると判断する以上、同様に非開示とせざるを得ない。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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14. 1.28 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
14. 2. 8 | ・部分開示理由説明書受理 |
14. 2.13 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
14. 4.23 | ・書面審理 ・実施機関の部分開示理由説明の聴取 ・審議 (第151回審査会)
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14. 5.14 | ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第152回審査会)
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14. 6. 4 | ・審議 ・実施機関の補足説明の聴取 (第154回審査会)
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14. 7. 2 | ・審議
(第156回審査会)
|
14. 8. 6 | ・審議
(第158回審査会)
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14.10. 1 | ・審議 ・答申 (第160回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。