三重県情報公開審査会 答申第132号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成14年5月24日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定鉄道路線廃止問題にかかる現状分析調査報告書」の開示請求 (以下「本請求」という。)に対して平成14年6月5日付けで行った非開示決定の取消しを求めるというものである。なお、実施機関は、本件異議申立てを受けた後、平成14年9月5日付けで、非開示決定の一部を取り消し部分開示決定(以下「本決定」という。)をしたが、異議申立人は、なお非開示としている部分について開示を求めている。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1) 条例第7条第3号(法人情報)に該当
本件異議申立ての対象となっている公文書は、特定鉄道路線の廃止問題に関し、当該路線の経営状況を独自に検証するため、実施機関及び沿線自治体で構成する勉強会が作成した報告書(以下「本件対象公文書」という。)である。
検討にあたり当該鉄道法人からは、外部に公開していない法人全体の経営に係るものを含めた経営実態資料が、勉強会の内部資料として非公開を前提に提供された。
本件対象公文書は、当該法人に関する情報または当該法人の事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため、当初は全面的に非開示としたが、最近の情勢にかんがみ、当該法人との協議を経て、鉄道事業の細部にわたる経営情報で、今後の事業活動に支障を及ぼす可能性がある項目については、本号に該当し非開示が妥当であると判断した。
(2) 条例第7条第6号(事務事業情報)に該当
本件対象公文書作成に際して当該法人から経営に係る資料を受けるにあたり、外部にその情報を漏らさないことを条件としていたものであり、当該文書を開示することで、当該法人と交わした約束を破ることとなり、今後の適正な事務事業の遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると判断した。
4 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
当該鉄道路線の廃止問題は、沿線の住民に大きな動揺を与え、存続を望む声が多い。当該法人の経営状況について分析調査されたものであれば公開されるべきである。
異議申立て後に一部開示となったが、当該法人の意向で非公開とされた部分についても、公共交通機関としての位置づけを考慮し、社会的道義からして問題点を住民に公開し現状を明らかにすべきである。
5 審査会の判断
本件対象公文書については、実施機関は、条例7条第3号(法人情報)及び第7条第6号(事務事業情報)に該当するとの理由により本決定が妥当であると主張している。 なお、前述のとおり、実施機関は当初の非開示決定を取り消し、一部開示を行っているため、なお非開示とされている部分について、当審査会として以下のとおり判断する。
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることを定めたものである。法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に開示が義務づけられることになる。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が、条例第7条第3号(法人情報)に該当するとして非開示としている情報は、以下のとおり分類することができるため、それぞれについて判断する。
ア 他の路線との比較に関する記述
本件対象公文書には、当該鉄道路線の経営状況を検証するうえで、他の路線の収支状況と比較検討している情報がある。実施機関並びに参加人として本件異議申立て手続きに参加している当該法人は、これらの情報が開示されると、利益を生んでいる場合は運賃を下げるように、逆に損失を生じている場合は他の路線の利用者から当該路線を廃止するように等の要望が寄せられるおそれがある、と説明している。
確かに、複数の路線を有する鉄道法人が、どの路線にどの程度の経費を投入し、その収支がどのようになっているかという情報は、企業の経営戦略に関する情報であり、これらの情報が明らかになると、競合する他社の路線や他の交通機関との競争において当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることは否定できない。また、公益上開示すべき必要があるとまでは認められず、本号ただし書にも該当しない。
よって、他の路線との比較に関する記述のうち、比較対象となった路線名(他の記述から路線名が容易に推測される情報を含む。)については、非開示が妥当である。
イ 営業収支のうち、人件費、運輸雑収等、細目別人件費、修繕費、その他経費、諸税、減価償却費の内訳
本件対象公文書中に記載された人件費、運輸雑収等、細目別人件費、修繕費、その他経費、諸税、減価償却費の内訳は、一般に公表している情報ではなく、また、一部には算出方法に起因して、実際と乖離した数字もあるため非開示が妥当である、と実施機関及び参加人は主張している。また、報告書に記載されている情報が、そのまま開示されると、報告書に誤りが記載されていることにもなる、とあわせて説明している。
確かに営業収支の内訳に関する詳細な情報は、一般的には公表されておらず、当該法人の内部管理に関する情報であると言える。しかしながら、当該路線は既に廃止が決定されたものであり、また、それぞれの営業収支の項目の合計額については既に開示しているところであるため、後述する人件費に関する部分以外の内訳が明らかになったからといって当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。
また、算出方法に起因して実際と乖離した数値になっており、報告書に誤りが記載されていると判断されるおそれがある、という主張については、本件該当公文書中に、「費用按分に関する留意点」として、必ずしも実態と一致しているものばかりではないことが説明されており、この点について実施機関及び参加人の主張を認めることはできない。 さらに、当審査会としては、前述のとおり、比較対象となった路線名については、非開示が妥当であると判断するが、路線名の特定ができなければ、その営業収支の内訳のみが判明したところで、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとまでは言えない。
ただし、当該路線の人件費のみについて実績を積み上げて算出している部分については、営業収支の実態をそのまま反映しているとともに、特定の部署に対する人件費投入額が明らかになる。これらの情報は一般的に公表されておらず、限られた部署内社員の人件費が容易に推測されることとなるため、本号に該当し、非開示が妥当である。なお、本審査会は前述のとおり、費用按分の結果得られた数値については、本号に該当しないと判断するが、これらの部分を開示することによって、結果として人件費の実績額が容易に算出されることとなる場合は、これらの情報を非開示とすることもやむを得ない。
よって、営業収支の内訳のうち人件費の実績額及び実績額が容易に算出される部分を除いては、本号には該当しないと判断する。
ウ 駅間流動表の発着駅毎の乗降客数
本件対象公文書には、当該路線の発着駅毎の乗降客数を詳細に調査した「駅間流動表」が含まれている。
実施機関は、本決定において乗降客数の合計については開示しているが、発着駅毎の詳細な数字については非開示としている。
これらの情報は、旅客運送業者のみならず他業種においても非常に有益な情報であると認められる。当該路線の廃止が既に決定していたとしても、当該法人自らが当該路線をつぶさに調査した結果得たデータであり、今後の競争上の利益を害するとは言えなくとも、当該法人の正当な利益を害するおそれがあることは否定できない。
よって、駅間流動表に記載の発着駅毎の乗降客数については、本号に該当し非開示が妥当である。
(4) 条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
(5) 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
本件対象公文書作成にあたっては、内部検討の資料としての用途に限定し、外部には公表しないとの条件で、当該法人に対して資料提供を依頼しており、これを開示すると当該法人との信頼関係を損ない、今後の同種の事務事業の遂行に著しい支障を及ぼす、と実施機関は説明している。しかしながら、非開示とすることを約束していたことのみを理由として本号に該当すると言うことはできない。なぜなら、非開示を正当とする理由の存否にかかわりなく、「非開示とする旨の約束」があれば、本号に該当し、非開示とすることができることとなれば、実施機関の都合により、非開示とすることができることとなり、取得した文書等を含め、原則開示とした本条例の趣旨に照らすと妥当でないと思われるからである。したがって、たとえ第三者から「外部には公表しない」との条件で文書を入手した経緯があったとしても、同条件は、実施機関が積極的に外部に公表することはしない旨の条件をつけたものにすぎず、本条例により開示を余儀なくされる場合を含むものではないと解すべきである。
よって、上述のとおり、当審査会が条例第7条第3号(法人情報)に該当しないと判断した部分については、これを開示することによって今後の同種の事務事業の遂行に著しい支障を及ぼすとは認められず、本号に該当するという実施機関の主張を認めることはできない。
なお、当審査会が、条例第7条第3号(法人情報)に該当し非開示が妥当であると判断する部分については、本号の該当性を判断するまでもない。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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14. 7.12 | ・諮問書の受理 |
14. 7.15 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
14.10.24 | ・非開示理由説明書の受理 |
14.10.28 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
14.11.26 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述・ ・審議 (第163回審査会)
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14.12.17 | ・審議 ・答申 (第165回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。