三重県情報公開審査会 答申第151号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った部分開示決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成15年3月8日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「三重県職員採用候補者中級(B)試験における試験区分「司書」の試験問題集及び正答表並びに論文試験課題」の開示請求に対し、三重県人事委員会(以下「実施機関」という。)が平成15年3月25日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「三重県職員採用候補者中級(B)試験における試験区分「司書」の試験問題集及び正答表並びに論文試験課題」(以下「本件対象公文書」という。)である。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書中の非開示部分は条例第7条第1号(法令秘情報)、第7条第3号(法人情報)及び第7条第6号(事務事業情報)に該当し、非開示(一部不存在)が妥当というものである。
問題作成機関(以下「作成機関」という。)から提供を受けた試験問題の著作権は、当該作成機関に帰属するものであるとともに、これを公開することは、法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められ、また、試験問題の提供を受けられなくなるなど、今後の試験実施事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるため非開示とした。また、平成8年度以前の各試験の試験問題及び正答表については、保存期間を経過したため、また、平成9、10年度の専門試験の正答表並びに教養試験Ⅱの正答表の一部は作成していないため、それぞれ不存在である。
5 異議申立ての理由
異議申立人は、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈・運用を誤っているというものである。
実施機関の主張している「専門試験の正答表並びに教養試験Ⅱの正答表の一部は作成していないため、存在しない」ということには、納得できない。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。 当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第1号(法令秘情報)の意義について
本号は、法令若しくは他の条例の定めるところによる、又は実施機関が法律上従う義務を有する各大臣その他国の機関の指示による場合の非開示を定めたものである。法令若しくは他の条例の定めるところにより公にすることができない情報は、この条例によっても開示できないことを確認的に規定するとともに、各大臣その他国の機関からの法的拘束力を持った指示により公にすることができない情報については、非開示とすることを定めたものである。
(3) 条例第7条第1号(法令秘情報)の該当性について
実施機関が本決定において非開示としたのは、本件対象公文書のうち試験実施後も公表しないことを前提に作成機関から提供を受けた試験問題であり、著作権は当該作成機関に帰属するものであることから、著作権を侵害するとして非開示が妥当と主張している。
これらの試験問題は著作権法第2条第1に該当する著作物であることが認められ、実施機関が説明するように、この著作物について作成機関が著作権の帰属を主張している以上、著作権法第18条に規定する著作物の公表権及び同第21条に規定する著作物の複製権を作成機関が専有すると解さざるを得ない。
さらに作成機関からは、これらの試験問題を作成機関の許可を得ずに第三者に複製し、貸与及び譲渡することはできないという条件で提供されており、また、実施機関からの照会に対しても、開示することは適切でないと意思表示している。
ここで本件開示請求と著作権法との関連について検討すると、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」第11条3項により、著作権法と情報公開条例との調整が図られており、未公表の著作物を別段の意思表示なく地方公共団体に提供された場合は、例外的に著作物でも開示できる旨を定めている。本件事案においては、本件対象公文書を使用して採用試験が実施されているが、一般的に県が行う他の採用試験問題や資格試験問題については、その多くが公開されており、職員採用試験問題について特別に秘匿すべき積極的な理由が認めにくいと考えられなくもない。
しかしながら、実施機関が非開示としたこれらの試験問題については試験終了後すべて回収されており、いったんは受験者が目にする機会はあったとしても、将来にわたって一般に広く公表されている状態であるとまでは言えない。さらに作成機関が著作権を主張し、これらの公文書の公表及び複製の許諾を否定する以上、実施機関が条例第7条第1号(法令秘情報)に該当するとして非開示としたことは、妥当であると言わざるを得ない。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)及び同第6号(事務事業情報)の該当性について
実施機関は、公開することにより、法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められ、また、今後の試験実施事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとして、条例第7条第3号(法人情報)及び第6号(事務事業情報)にも該当すると主張しているが、上述のとおり、本件事案は条例第7条第1号(法令秘情報)に該当し、実施機関の決定が妥当であるから、同条第3号及び第6号の該当性について判断するまでもない。
(5) 不存在決定の該当性について
実施機関は、本件対象公文書のうち平成8年度以前の各試験の試験問題及び正答表については、保存期間を経過したためすでに廃棄していること、また、平成9年度及び10年度の専門試験の正答表並びに教養試験Ⅱの正答表の一部は、答案の採点も含めて他部局へ委託しているため作成していないことから、不存在であると主張している。
確かに、異議申立人が主張するように、実施機関が採点を行う際の正答表を保有していないことについては、奇異に感じるのも理解できなくはない。
しかしながら、公文書の処理期限にしたがって廃棄し、または、文書自体を作成、取得していないとする実施機関の説明から保有していないことは明らかであり、公文書の特定についても誤りがあったとは言えないことから、実施機関の本決定は妥当であると言わざるを得ない。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会からの提言
当審査会の結論は以上のとおりであるが、本件事案の場合、異議申立人請求の趣旨を十分に満足させるような公文書が存在しないことについて、審査会として次のとおり意見を述べる。
専門試験の正答表については、他部局へ採点も含めて業務を委託しているため、不存在であるとの実施機関の主張であるが、他部局へ業務を委託しているとはいうものの県内部で事務が行われている以上採用試験の合否の決定を行う機関として、その問題の正答表を保有していないことは一般的には納得しにくいことである。また、教養試験Ⅱの正答表については、問題の性質上正答表と呼べるものがないとして不存在としているが、採点の参考にするためそれに替わる文書を保有しているのであれば、請求の趣旨を幅広く解釈したうえで、公文書を特定する必要があったと考えられることから、その意味では異議申立人の主張も理解できるところである。
今後実施機関においては、採用試験事務に係る説明責任を果たすためにも、また、情報公開制度への信頼を確保するためにも、情報公開条例の適正な運用と、公文書の適正な保有・管理に努められたい。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
15. 5.21 | ・諮問書の受理 |
15. 5.21 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
15. 6.24 | ・非開示理由説明書の受理 |
15. 6.26 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
15. 8.19 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・審議 (第181回審査会)
|
15. 9.30 | ・審議 ・答申 (第183回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※ 委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※ 委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
なお、本件事案にについては、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。