三重県情報公開審査会 答申第162号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った不存在決定は、その理由付記が十分とは言えないものの、取り消すまでもない。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成15年5月19日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「元鈴鹿市立○○小教頭に関し、県教委会が鈴鹿市教育委員会に指導したとされる「規律違反報告書の提出不要」が平成13年10月10日以降何時行われたかが解る情報」の開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成15年5月28日付けで行った公文書不存在決定(以下「本決定」という。)の理由付記に不備があり、取消しを求めるというものである。
3 実施機関の不存在理由説明要旨
当該教頭は事故発生時における対面信号が黄色であったと主張し、規律違反報告の重要な要素である本人の過失の程度が特定できず、規律違反の事実行為を確認することが困難であった。
鈴鹿市教育委員会は規律違反報告書を提出する方向で準備していたが、上記の理由から、鈴鹿市教育委員会と三重県教育委員会及び北勢教育事務所が協議し、当該教頭の過失の有無、過失がある場合の過失の程度について警察署や検察庁の判断を参考とすることとし、その判断が得られるまで規律違反報告書の提出を見合わせてもらうよう依頼した。この協議は全て口頭で行われたため、公文書は存在しない。
4 異議申立ての理由
実施機関は非開示とした理由の1つに、元鈴鹿市立○○小教頭に関し「規律違反の事実行為を確認することが困難であった」としているが、刑事事件として争われた本件交通事故の判決公判での判決理由の内容(元教頭が赤信号で交差点に進入)と大差ない情報(元教頭に過失責任があるとする情報)を実施機関と市教委会にその都度提出しており、実施機関が述べる「規律違反事実行為の確認」が困難であったとは思えない。
実施機関は非開示とした理由の2つ目に「規律違反報告書の提出を見合わせてもらうよう依頼した。この協議等は全て口頭で行われたため、公文書は存在していない。」と言っている。公文書の不存在は容認するとしても、私の知りたいことは「規律違反報告書の提出不要の指導」が平成13年10月10日以降にも行われたかという事である。
なお、元教頭が懲戒処分を受けることなく平成14年3月31日で退職した事実を知り、処分なき退職が何故許容されたのかを実施機関に尋ねたところ、平成14年10月8日付け文書で市教委会が「規律違反報告書」提出していないからであると回答したにも関わらず、「規律違反報告書」を出さなかった真相を市教委会に尋ねたところ実施機関から「規律違反報告書の提出不要」の指導が平成13年9月中(私が実施機関に情報提供する以前)に2回あった事を知り得ている。
私が上述の齟齬に関し疑義を呈すると、市教委会は私宛に最後通牒を出し、また、実施機関は平成14年12月13日付け回答文で「規律違反報告書の提出を見合わせていただいておりました。」と前言を翻すなど、当該事故処理にどのような姿勢で対処されたのかと不信感を持たずにはいられない。
以上のことから私が情報提供を行い受理した平成13年10月10日以降のどの時点で「規律違反報告書の提出不要の指導」が行われたのかを知ること、また、公文書の不存在の理由を知ることは、実施機関が当該事故処理にどの様な姿勢で対処されたのか、また禁固刑を受けるほどの過失を犯した人が、何故一般社会では考えられない懲戒処分なしで、しかも勧奨退職できた理由の真相解明をする鍵となる。
したがって、上述の趣旨のとおり、「公文書が存在しない理由の付記には不備がある」との答申を求める。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
なお、異議申立人は、公文書の不存在については容認しているが、「不存在決定通知書の理由付記に不備があり違法である」という主張であり、当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)条例第15条(理由付記)の意義について
条例第15条(理由付記等)において、この通知を行う際には決定の書面主義に加えて、書面に理由の付記を要求している。これは、1.決定の理由の付記は決定行為の発動を慎重ならしめ、決定の適正化をもたらす効果を持つこと、さらに、2.決定理由の明示は当事者が争訟を提起するのに便宜なこと、などが意図されているのであるから、実施機関は決定の根拠条文を示すだけでなく、具体的事実に基づき推論過程を明らかにするなど判断の根拠を示さなければならない。
したがって、全然理由を付さなかったり、理由らしき理由を付さなかったときは、決定に形式上の瑕疵があるとされる。
(3)実施機関の理由付記妥当性について
異議申立人は「公文書が存在しない理由の付記には不備がある」と主張している。本件不存在決定についてなされた理由付記は、平成15年5月28日付け教委第20-91号公文書不存在決定通知書において「請求された内容の公文書が存在しないため」と付記されるのみであり、異議申立人が求める「平成13年10月10日以降も指導があったか否か」については言及されていない。
上述のように、ただ「存在しないため」という理由のみにとどまる場合には、違法性が高いと考えるべきであるが、本件の場合は「口頭にて伝えましたので、『何時行われたかが解る情報』に係る公文書は存在しておりません。」とする別添文書が、本決定と同時に交付されている。実施機関は「別添文書は条例に基づくものではないものの、条例で定める公文書不存在決定通知書を送付した上で詳しく補足するために行った」と説明している。
なお、異議申立人は「公文書が不存在であることは理解するものの、単に公文書が不存在ということではなく、私が資料提供をした平成13年10月10日以降、市教育委員会に対して規律違反報告書の提出不要の指導を行ったが公文書は不存在というのか、それとも指導を行わなかったから公文書は不存在というのか知りたい」と主張している。
そこで、当審査会は『平成13年10月10日以降、市教育委員会に対して規律違反報告書の提出を見合わせるよう述べたか否か』について、関係者(当時の県教育委員会担当者、北勢教育事務所、市教育委員会)に対して事実の確認を調査するよう要請したが、実施機関は「市町村教育委員会からの規律違反報告書提出の対応については、「通例として口頭で行っていること」「依然事実の確認は不明であった」として、平成13年10月10日以降の指導の有無については明確にはならなかった。
実施機関が本決定に際して異議申立人の請求の趣旨を十分に満足させるような説明責任が果されていないことは遺憾であるが、別添理由書が付記されていることから、理由付記に不備があり違法であるとまでは言えない、と判断する。
(4)結論
よって主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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15. 8. 4 | ・諮問書の受理 |
15. 8.21 | ・実施機関に対して不存在理由説明書の提出依頼 |
15. 9. 9 | ・不存在理由説明書の受理 |
15. 9.11 | ・異議申立人に対して不存在理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼 |
15.11.25 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 (第187回審査会)
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15.12.16 | ・実施機関の不存在理由説明の聴取 ・審議 (第189回審査会)
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16. 1.27 | ・実施機関の補足説明の聴取 ・審議 (第191回審査会)
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16. 2.24 | ・審議 ・答申 (第192回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。