三重県情報公開審査会 答申第179号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年2月26日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「療育手帳保有者数及び知的障害者数が記載されている文書、数に相違がある場合はその理由が記載されている文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年3月9日付けで行った公文書開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
知的障害児(者)に対して、一貫した指導、相談を行なうとともに各種の援助措置を受け易くするため申請に基づき、知的障害があると判定された場合には療育手帳が交付されることになっている。知的障害児(者)の中には療育手帳の交付を受けずに、社会生活を送っている方もいることから、実数の把握は困難で文書も存在しない。
また、知的障害と判定されても療育手帳の申請をしない方もいれば、判定すら受けない知的に障害がある方もいるため、療育手帳保持者数を知的障害者数とすることはできないことから、知的障害のある者の数が記載されている文書は不存在とした。
4 異議申立て理由
開示請求に係る文書の特定に誤りがあり、開示請求に対する処分を請求する。知的障害者の数が記載されている文書の開示請求に対する処分をしていない。療育手帳交付者数と知的障害者の数に相違がある場合、相違が生じた理由が記載された文書の存否についての処分をしていない。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
なお、本件事案について、異議申立人は実施機関が行った本決定の取り消しを求めているが、異議申立ての主旨は、実施機関が知的障害のある者の数が記載されている文書は不存在としたこと(以下「不存在決定」という。)であると認められる。
よって、当審査会は、不存在決定について情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下に判断する。
(2)不存在決定の妥当性について
異議申立人は、「実施機関の開示請求に係る文書の特定に誤りがあり、知的障害者の数が記載されている文書の開示請求に対する処分をしていない。療育手帳交付者数と知的障害者の数に相違がある場合、相違が生じた理由が記載された文書の存否についての処分をしていない。」と主張している。
また、「名古屋市ではほとんどの知的障害者と判定された方は療育手帳を申請するので、療育手帳保有者数を知的障害者数としている。療育手帳保有者数と知的障害者数を比較し、つじつまが合わない数値を県が放置すれば、知的障害者の政策にも悪影響が出てくると考える。県は、名古屋市が採用している知的障害者数の把握方法を参考にして、妥当性のある数値を開示すべきである。」とも意見書で述べている。
さらに、「県の定めた知的障害の定義、知的障害判定基準、その運用文書を提示して、知的障害者に対する療育手帳交付状況及び知的障害者ではないが療育手帳が必要な者(運用上、知的障害者であると認定する)に対する療育手帳交付状況を明らかにすべきである。」とも追加意見書で述べている。
他方、実施機関は、「知的障害と判定されても手帳の申請をしない者もいれば、判定すら受けない知的に障害のある者もいるため、療育手帳保持者数を知的障害者数とすることはできない。県では、療育手帳の有無にかかわらず、訪問し調査することになっているが、訪問調査は人権問題に関わることから、療育手帳所持者しか対象にできないのが現状である。また、不在等訪問調査では把握に限界があることから、実態調査上の数値は療育手帳所持者数を下回る。さらに判定の結果、手帳の交付対象となる者についてのみ療育手帳を交付しているので、手帳所持者の中に知的障害ではない者が含まれたり、ダブルカウントしているようなことはない。」と追加説明書で述べている。
実施機関が知的障害の定義、知的障害判定基準、その運用文書を提示して、知的障害者に対する療育手帳交付状況及び知的障害者ではないが療育手帳が必要な者に対する療育手帳交付状況を明らかにすべきであり、これを明らかにしないのであれば、どの数値を使って施策を推進するのか疑問であるとする異議申立人の主張は理解できなくはない。
しかし、知的障害者の定義が法律で明示されておらず、また、仮に知的障害者を定義したとしても、職権で知的障害者数を調査することは、人権への配慮上問題があると認められ、実際にもそのような仕組みにもなっていないという実施機関の説明に不自然な点は認められない。
したがって、実施機関の行なった不存在決定は妥当であると言わざるを得ない。
(3) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
16. 3.18 | ・諮問書の受理 |
16. 3.22 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 3.29 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 3.31 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
16. 6. 9 | ・実施機関に対して意見書の送付 |
16. 6.22 | ・実施機関からの非開示理由追加説明書の受理 |
16. 6.25 | ・異議申立人に対して非開示理由追加説明書の送付 |
16. 7. 1 | ・異議申立人からの追加意見書の受理 |
16. 7. 6 | ・実施機関に対して追加意見書の送付 |
16. 8.17 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第203回審査会)
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16. 9.28 | ・審議 ・答申 (第206回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。