三重県情報公開審査会 答申第197号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年7月21日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「三重県が起こしたすべての非訟事件及び県に対して起こされた訴訟事件、非訟事件に関するすべての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年8月3日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件異議申立ての対象公文書
「特定事件における訴状の添付書類である新聞記事」(以下「本件対象公文書」という。)
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
条例第7条第2号(個人情報)に該当
本件対象公文書中の個人の氏名及び住所等は、個人情報に該当する。
5 異議申立て理由
新聞は、すでに万人に知れる状態で公にされており、現在でも図書館等に行けば容易に知り得るため、開示したところで、他人のプライバシーの侵害にあたらない。個人の住所、氏名に関する部分を非開示とした決定は法の解釈を誤っている。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関は、今回異議申立ての対象となっている本件対象公文書中の氏名、住所、年齢及び顔写真(以下「氏名等」という。)を非開示にしなければ、訴状と他の添付書類の氏名等の非開示部分が推測できるとの判断から、これらの情報は個人情報に該当して非開示が妥当であると主張している。
一方、異議申立人は、新聞は、すでに万人に知れる状態で公にされており、現在でも図書館等に行けば容易に知り得るため、開示したところで、他人のプライバシーの侵害にあたらず、住所及び氏名に関する部分を非開示とした実施機関の決定は、法の解釈を誤っていると主張する。また、プライバシーの保護は格段の理由がある場合、当然考慮されるものであるが、本件事案のような行政訴訟は裁判所へ行けば自由に傍聴できることから、原告は氏名等が明らかにされることを前提として考えているものであると主張する。
まず、実施機関が非開示とした氏名等は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別できる情報であり、本号本文に該当することは明らかである。確かに、新聞記事そのものであれば、報道された事柄は何人も知り得る状態であるから、すでに公にされている情報であり、異議申立人の主張も理解できなくはない。
しかしながら、本件対象公文書は、訴状の添付書類の一部であり、訴訟記録の資料のひとつであるから、新聞記事そのものと同一視できる性質のものではなく、すでに公にされている情報であるとはいえない。また、一般的に過去に新聞記事が広く報道された事実があったとしても、その遺族や関係者が氏名等の情報について現在でも開示されることを必ずしも望んでいるとは限らない以上、個人情報の開示に際しては慎重に対応する必要があり、当該個人の権利利益を侵害してまで公にすべきであるとの特段の事情も認められないことから、公益上開示すべき情報であるとはいえない。
したがって、実施機関が非開示とした本件対象公文書中の氏名等は、本号(個人情報)に該当し、ただし書にも該当しないことから、非開示が妥当である。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16. 8.30 | ・諮問書の受理 |
16. 9. 1 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 9.22 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 9.29 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 3.15 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第217回審査会)
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17. 4.12 | ・審議 ・答申 (第219回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 三重中京大学短期大学部教授 |
※委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。