三重県情報公開審査会 答申第49号
答申
1 審査会の結論
「平成7年度上野南部第二地区第1換地区換地設計総括表」の非開示決定の取消しを求めるとの異議申立人の請求は、現在別の機会に同文書が異議申立人に公開されているので、却下すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成9年5月30日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「上野南部第二地区第1換地区に係る換地関係書類」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成9年6月13日付けで行った「平成7年度上野南部第二地区第1換地区『換地設計総括表』」(以下「本件対象公文書」という。)の非開示決定の取消しを求めるというものである。
なお、本件対象公文書は、土地改良法の規定により、実施機関が県営ほ場整備事業の換地計画を上野南部第二土地改良区に委託し、作成したものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本案前の抗弁として却下を、本案についての主張として棄却を求める、というものである。
(1)本案前の抗弁-異議申立ての利益について
本件は、行政処分の取消しを求める異議申立てであるから、これが認められるためには、異議申立人が本件処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害されるか、そのおそれがあり、当該行政処分の取消しにより権利利益が回復される場合でなければならない。
ところが、異議申立人らが原告となり、実施機関を被告としている「換地計画に対する異議申立ての棄却処分取消請求事件」(平成8年(行ウ)第11号)において、実施機関は、第7回口頭弁論期日である平成9年12月25日、本件対象公文書を書証(乙第10号証の一部)として提出しており、異議申立人は、本件対象公文書の開示を受けたのと同様の状況に至っている。
したがって、本件においては、本件対象公文書の非開示という権利侵害状態は既に解消しており、本件非開示決定の取消しを求めるについて、異議申立ての利益はない。
(2)本案についての主張
なお、仮に異議申立ての利益が肯定されるとしても、以下に述べるように本件対象公文書は、条例第8条第4号(意思形成過程情報)に該当するので、非公開が妥当である。
①条例第8条第4号(意思形成過程情報)の該当性について
当換地区においては、換地処分による登記が未だ完了していないため、条例第8条第4号(意思形成過程情報)に該当する。これは当該換地計画書が処分前であり、今後地権者によってこの計画が意思決定されるものであるから、これより前に特定の個人に当該情報を公開することが、他の地権者に誤解を与え又は無用の混乱を招くおそれがある。
なお、本件対象公文書は、土地改良法に従い縦覧に供され公開されてはいるが、それは換地計画の利害関係人に異議申立ての機会を与え、その権利を保護するという観点から土地改良法が要請しているものであるが、本件開示請求の時点においては縦覧期間が経過し、何人でも閲覧できるというものではなく、その情報を容易に入手しうるということはできない上、縦覧手続きにおける縦覧の方法、期間等を考慮すれば、本件対象公文書に記載された情報は、縦覧によって広く一般の人々に知られているとも言えない。
4 異議申立ての理由
異議申立人が異議申立書で述べ、また、審査会で口頭意見陳述している異議申立ての主たる理由は次のように要約される。
(1)異議申立ての利益について
本件異議申立てについては、異議申立人が本件処分に対して取消請求権を有するかどうかであり、本件処分が適法であったかどうかが争点である。つまり、異議申立人は、本件請求をしたところ本件処分を受けたのであるから、その時点で知る権利又は開示請求権が侵害されたのであり、その意味で、本件請求に基づく開示がされなかったという権利侵害状態は現在もなお継続していることになる。このように、異議申立人は、本件処分をされたことにより、本件情報が必要なときに、その開示を受けられなかったのであり、本件異議申立ては、こうした本件処分の適法性が争われているのであるから、たとえ、本件処分後に、本件対象公文書が開示される事態が生じたとしても、本件処分の取消しを求める異議申立ての利益はあるとすべきである。そうでないと、本来は非開示事由に該当しないにもかかわらず、意思形成過程等を理由に非開示決定した後、何らかの事情により開示することで、「その時点において公文書を開示することを請求する権利」を奪うことが可能になってしまうことになる。
なお、本件対象公文書の開示請求に対して、その理由がないにもかかわらず、意思形成過程を理由に非開示処分をしながら、別件訴訟の審理中に、本件対象公文書を開示したうえ当該取消しを求める異議申立ての利益がないと主張するのは、情報公開を行政機関の恣意に委ねる結果となり、具体的権利として保護されるべき情報公開請求権を不当に侵害するものであるから、このような主張は、許されるべきではない。
(2)本件処分の違法性について
異議申立てに係る換地設計総括表は、換地計画を定める権利者会議の議案として提示し確認を求めたものであり、換地配分する元の地積が表示されており、当初の事業計画及び換地の基本計画作成時に決定済のものである。仮に非開示の理由としている当該総括表は意思形成過程とするならば、それに基づいてする換地配分率も定まらず、換地もできない。
自分も当該事業に関係する土地所有者であるのだから、自分にも提示なくして何者によって意思形成するのか。
他方、当該総括表は、それに基づいた換地計画に関し、2回にわたる公告縦覧をした換地計画書に添付されている。
請求分を別にしたその後の権利者会議には、主議案書が欠落していても、当該総括表は配付され示されている。そして、その後の回収もなされていない。
以上述べたとおり、非開示の要件を欠いた不当な決定であるため、決定を取消し、請求どおり開示すべきである。
5 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は、①異議申立人には本件異議申立ての利益がない。②仮に、これがある場合でも、本件対象公文書は条例第8条第4号に該当するので非開示にできると主張している。そこで、以下について判断する。
(1)基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。
条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)異議申立ての利益について
異議申立人が県内に住所を有していること、また、異議申立人が本件請求をしたところ、本件対象公文書には条例第8条第4号所定の情報が記載されているとして本件処分がされたことは当事者間において争いがないから、異議申立人は、本件処分により、条例に基づく本件対象公文書の開示を求める権利又は利益を侵害されたことになる。
そして、本件は、実施機関が本件処分を取り消すことより、この権利又は利益を回復しようとするものであり、本件処分が取り消されれば、実施機関は異議申立人に対し、本件対象公文書を開示しなければならないから、本来、異議申立人には、本件処分の取消しを求める法律上の利益がある。
ところが、実施機関は、平成9年12月25日の「換地計画に対する異議申立ての棄却処分取消請求事件」訴訟の第7回口頭弁論期日において、本件対象公文書を書証 (乙第10号証)として提出し、異議申立人(原告)の訴訟代理人がその写しを受領している。
そうすると、異議申立人は、そのころ本件対象公文書の写しを入手し、それに記載された情報を得たことになり、異議申立人には、もはや本件処分の取消しを求める異議申立ての利益はないものというべきである。
すなわち、異議申立人は、当初、本件処分により本件対象公文書の開示を受けられるという権利又は利益が侵害された状態にあったが、その後、事情が変化して侵害状態が解消されたことになった結果、法律上の利益は失われるに至り、結局、本件処分の取消しを求める異議申立ての利益はなくなったものというべきである。
また、異議申立人は、実施機関が、公文書の開示請求に対して、その理由がないにもかかわらず、意思形成過程を理由に非開示としながら、別件訴訟の審理中に、本件対象公文書を開示したうえ、異議申立ての利益がないと主張することは、情報公開を行政機関の恣意に委ねるものであり、許されないとも主張する。しかし、本件において、実施機関が本件対象公文書を開示するに至った経緯について、異議申立人の主張するような恣意的な事情を認めるべき証拠はないばかりか、仮にそのような事実があったとしても、それは、異議申立ての利益を左右するものではなく、これとは別の問題である。
この点に関する異議申立人の主張は、いずれにせよ理由がない。
(3)その余の判断について
上記のとおり、当審査会としては、異議申立ての利益が認められないため、条例第8条第4号(意思形成過程情報)への該当の判断は省略する。
(4)結論
よって、本件対象公文書の非開示決定の取消しを求める異議申立人の請求は、異議申立ての利益がなくなったのであるから、これを却下すべきである。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
7 審査会としての提言
審査会の結論は以上のとおりであるが、本件の経緯を見る限り、地権者の1人である異議申立人に対して、換地の基本計画を示す本件対象公文書の公開に応じないのはいささか硬直した対応に見える。土地改良法における縦覧の方法、期間等の制限を考慮すれば、地権者に十分な情報提供がなされているとは必ずしも言い難いし、また、異議申立人が当該土地改良事業における地権者の1人であることを加味すると、請求権者、請求目的等による制約条件の少ない情報公開条例に基づく判断にこだわらず、具体的な事情を勘案した上でのより積極的な情報提供について、今後さらなる検討が望まれる。
別紙1
審査会の処理経過
※左右にフリックすると表がスライドします。
年月日 | 処理内容 |
---|---|
9.11.10 | ・諮問書受理 |
9.11.21 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
9.12. 8 | ・非開示理由説明書受理 |
9.12.19 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
10. 1.13 | ・口頭意見陳述申出書受理 |
10. 6.30 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 (第85回審査会) |
10. 7.23 | ・異議申立人の口頭意見陳述の聴取 ・審 議 (第86回審査会) |
10. 8. 7 | ・審 議 ・答 申 (第87回審査会) |
三重県情報公開審査会委員
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職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 室木 徹亮 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |